本研究は鼻咽腔領域の気流変化と上気道流体シミュレーションを用いた気流解析を用いて、顎矯正手術が鼻咽腔領域の気道に及ぼす生体作用を解明することを目的として研究を2020年から開始した。研究対象者は新潟大学医歯学総合病院口腔再建外科において、顎矯正手術を予定している顎変形症患者としていたが、研究期間中に新型コロナウイルスの感染拡大による影響で、当初の予定では研究継続が困難となり、本研究の対象者は32名と予定よりも少なくなってしまった。さらにデータ採得時の体動等が認めた者はデータが解析できなかったため、最終的には8名の患者データで解析を行った。対象は全例上下顎骨形成術を施行した患者であり、その内訳は男性4名、女性4名、手術時の平均年齢は21±6歳であった。側面頭部X線規格写真分析において手術に伴い、上顎骨はA点において水平方向で0±1.1mm、垂直方向で0.4±1.8mm上方、PNSでは0.8±1.5mm後方(最大2.1mm前方移動)、2.3±2.0mm上方(最大3.6mm上方移動)と5mm以内の顎骨移動量であった。下顎骨に関してはB点において7.3±2.2mm後方(最大10mm後方移動)、0.6±3.5mm下方(最大5.8mm下方)であった。上気道流体シミュレーションで術前後の気道領域における最大陰圧の変化は‐6.7±13.0Paであり、術前後で大きな変化が認められなかった。今回の研究結果から上顎に関しては5mm以内、下顎においては10mm以内の顎骨移動であれば気道領域への影響はほとんど出ないことが判明した。研究開始当初に予定していた画像解析ソフトが研究危難中に使用困難な状態となってしまったため、現在、別の画像解析ソフトを用いてCT画像を用いて気道形態の分析および鼻腔通期度との関連性についての解析中であり、その結果をしかるべき学会で発表予定である。
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