研究課題/領域番号 |
20K10152
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研究機関 | 朝日大学 |
研究代表者 |
土屋 博紀 朝日大学, その他部局等, 名誉教授 (30131113)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | マルチモーダル鎮痛 / 適用薬 / 薬物選択基準 / 生体膜 / 機序的膜相互作用 / 膜流動性変化 |
研究実績の概要 |
非オピオイド系薬物やオピオイドと多様な薬物を併用し、鎮痛効果を高めるだけでなく副作用も軽減する「マルチモーダル鎮痛」の戦略が、先制鎮痛による歯科治療時の術後鎮痛にも生かされつつある。しかし、異種薬物の配合に関し、作用機序に基づく合理的選択法は必ずしも確立されていない。そこで、適用薬が脂質二重層にも作用し得る両親媒性構造を共有することに着目した。生体膜との機序的な相互作用を一連の実験で解析し、得られた各薬物の膜活性を特徴づける基礎的知見を、マルチモーダル鎮痛の薬物選択基準という臨床的意義へと発展させる本研究を実施する。令和2年度は、研究の根幹を成す実験系の確立という基礎実験に加えてその応用実験を計画した。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、研究計画を大きく変更せざるを得なかった。そのような研究条件下から、以下のような成果を得た。 (1)神経細胞、肝細胞、腎細胞やその他生体膜の脂質組成に準じて種々のリン脂質とステロールを組み合わせ、Injection法によるリポソーム調製ならびに薬物を作用後に蛍光偏光を測定して膜流動性の変化に基づく薬物-膜相互作用の解析法を確立した。この方法をアニリン系鎮痛薬アセトアミノフェン、フェナセチンや非ステロイド系抗炎症薬NSAIDsの膜作用解析に応用し、実験の妥当性を検証するとともに、令和3年度に計画する本格的応用研究のための予備的実験を行った。 (2)新型コロナウイルス禍の中、若干得られた基礎的研究成果を公表できる機会も失ったため、薬物と生体膜脂質との相互作用に関する本研究のコンセプトを総説としてまとめて国際誌に発表した。さらに、膜脂質ドメイン・ラフトとの相互作用をマルチモーダル鎮痛適用薬以外にも仮説的に拡張した結果、抗SARS-CoV-2薬・COVID-19治療薬につながる可能性も得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウイルス感染拡大にともない、令和2年の春から夏にかけて計画した実験のほとんどを行うことができなかった。また、研究成果の公表を予定していた国際会議や国内学会は全てが中止となり、限られた学会もWeb開催のみとなった。したがって、当初の研究計画に比べ、令和2年度の研究進捗状況は大幅に遅れることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス禍の中で当初の計画よりも応用実験が遅れたため、令和2年度に予定していた実験Ⅰの残りの部分に加え、以下のような研究を実施する。 令和3年度の研究実施計画 膜流動性変化に基づく薬物-膜相互作用の解析(実験Ⅱ):消化器障害性NSAIDs、長時間作用型局所麻酔薬、TRPV1アゴニスト等と疑似生体膜との相互作用を定量的に解析する。また、カプサイシン(アゴニスト)とカプサゼピン(アンタゴニスト)を併用し、膜流動性変化を比較して膜作用に関する拮抗機序を考察する。 令和4年度の研究実施計画 膜流動性変化に基づく薬物-膜相互作用の解析(実験Ⅲ):SNRI、抗てんかん薬、その他マルチモーダル鎮痛適用薬に関し、膜相互作用のデータを蓄積する。実験Ⅰ~Ⅲの結果に基づいて各薬物の膜活性を特徴づけ、薬物選択基準として応用できる可能性を追究する。そして、全年度を通して研究を総括し、その成果を公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染が収束しない中、令和2年度前半は実験をほとんど行うことができず、実験に関する「物品費」が当初予定したより低額となった。また、研究成果の公表を予定していた国際会議や国内学会が中止となり、参加・出席のために計上した「旅費」も全額未使用となった。さらに、実験結果に基づくResearch Paperは執筆・投稿の機会を失い、Review Paperを除いて、論文掲載費等の「その他」経費も大きく減額することとなった。以上の理由により、次年度使用額が生じた。
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