研究課題
がん治療における化学療法中の様々な合併症と,口腔状態との関係を解明するために、様々な統計解析を行ってきた.すなわち,歯式等と合わせて口腔感染源スコアやPISA値等の項目と,合併症の種類,有無や程度を検証し,これらの臨床情報の統計解析により,口腔環境と合併症の関連を明らかにすることを目的としてきた.方法としては、当院の血液内科で化学療法を行う患者に対して,発熱性好中球減少症の発症と口腔環境について解析を行った.その結果,発熱性好中球減少症発症群では,歯周炎の評価指標であるPISA:Periodontal inflamed surface areaが発熱性好中球減少症非発症群と比較して有意に高値で,う蝕経験値や,治療前後の口腔細菌数に両群の違いは認めなかった.発熱性好中球減少症の約半数は感染源が不明とされ,時として重篤な感染症に発展して死に至ることもある病態である.この結果から,発熱性好中球減少症の発症や増悪に歯周病菌などの口腔細菌が関連することを示している.また,当院脳卒中患者534名において,歯周病菌9菌種16菌体の血清抗体価をELISA法で解析し,脳卒中発症3か月後に生活自立度不良と診断された患者では,F. nucleatum 10953 の血清抗体価が,有意に高値であったことを確認した.解析したF. nucleatum 2菌体のうち10953株のみが予後不良に影響するリスク因子として検出されたところが非常に興味深く,F. nucleatumのsub speciesについても今後は検討していく必要があると考えている.化学療法中の合併症や脳卒中の転帰に関する口腔細菌の関係を解析し,合併症に関連する特定の細菌,細菌叢を明らかにする事で,がん治療中合併症に対する特異的細菌や口腔環境を標的とした予防法の解明を行っていくことを目標として成果を一部まとめることができた.
2: おおむね順調に進展している
発熱性好中球減少症など細菌が原因となる合併症発症リスクが高い化学療法患者を中心に,唾液・プラーク・舌苔を採取し、解析を行ってきた。臨床情報の統計解析を行うために,歯科初診時に,通法の口腔検査や申請者らが開発した口腔感染源評価を行って、様々な合併症発症や増悪に関係する口腔のリスク因子を解析してきた。
脳卒中発症3か月後に生活自立度不良に関与する因子の一つとして、解析したF. nucleatum 2菌体のうち10953株のみが予後不良に影響するリスク因子として検出された。F. nucleatum のうち1つの菌株のみが関連しているところが非常に興味深く,F. nucleatumのsub speciesについても今後は検討していく必要があると考えている。また、化学療法開始前に採取した唾液,プラーク・舌苔・便からDNAを抽出後,16SrRNA遺伝子を指標とした細菌叢解析を行って、細菌叢と合併症の有無や程度との関連を統計解析する予定である。
次年度に次世代シーケンサーを用いた研究を数回行う予定であり、シークエンスカートリッジの購入費用としている.484,122円を次年度使用額としたのは、カートリッジ費用が1個25万であり、2回のシークエンスで50万費用がかかることをみこして次年度使用とした。
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巻: 12 ページ: 2483
10.1038/s41598-022-06485-0
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10.1111/odi.13682