研究課題/領域番号 |
20K10164
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
河野 憲司 大分大学, 医学部, 教授 (50214664)
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研究分担者 |
阿部 史佳 大分大学, 医学部, 助教 (00718421)
河野 辰行 大分大学, 医学部, 講師 (20548143)
川村 和弘 大分大学, 医学部, 助教 (20815005)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 口腔扁平上皮癌 / 3次元微小環境モデル / 低酸素環境 / 悪性形質 / hypoxia-inducible factor / ErbBファミリー / 癌微小環境 |
研究実績の概要 |
まず口腔扁平上皮癌の生検組織を用いて組織学的腫瘍構築とHIF1αとErbB3の組織内発現の検索をおこなった。大型癌胞巣では低酸素状態になる胞巣中心部は胞巣辺縁部よりもHIF1αの発現が強い傾向であった。しかし小型胞巣でもHIF1α発現が強い症例を認め、癌胞巣の組織学的構築とHIF1α発現との関連性は明確でなかった。組織内の酸素濃度は間質線維化や血管密度の低下と関連することが予測されるため、この観点からも検索を行っている。また癌浸潤先端部の小型胞巣ではHIF1αの発現が強かった。この部位ではEカドへリン減弱とNカドへリン発現が生じていたことから、低酸素環境により誘導されるHIF1αがカドへリンスイッチ(上皮間葉転換)に関連することが示唆された。さらにHIF1αとErbB3の発現はおおむね帯同的であり、HIF1αがErbB3の発現を誘導している可能性が示唆された。次にin vitroの低酸素環境で癌細胞の細胞接着が解除されるか否かを検討した。Eカドへリン高発現の口腔扁平上皮癌細胞株MOK101の浮遊培養により3000個の細胞から成る単一細胞集塊(single multicellular aggregate, single MCA)を作り、これらをプレート上に移し、単一コロニーが形成された後に低酸素環境に移して観察を行ったところ、10日目頃にコロニー周辺から遊出する癌細胞が出現した。この現象は低酸素環境による細胞分散誘導と考えられる。さらにMOK101をsingle MCAをコラーゲンゲル内に埋め、低酸素環境で3次元培養を行なった。single MCAは周囲に枝状突起を伸ばしながら次第に増大した。突起形成時にはまず単一の癌細胞がMCAから遊離し、その後、MCA本体と結合して突起を形成していた。さらに14日目にはMVA本体とは連続しない小コロニーが枝状突起の先端に出現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は2020年度~2022年度の期間で採択されたものであるが、新型コロナウイルスパンデミックのために2020年度に購入予定であった遠心機が2021年度になり、さらに当科で保存していた口腔癌細胞株の調整に時間を要し、当初の研究計画が約1年分遅れた。このため研究期間を1年間延長し、計画にそって研究を進めている。前項「研究実績の概要」で記載したように研究仮説にあったデータを得ている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きsingle MCAを超微形態観察、免疫染色によりEカドへリンからNカドへリンへスイッチの有無、HIF1α、ErbBファミリーの発現について検索する。並行してHIF1αノックダウン細胞の作製とヌードマウス移植実験、HIF1αからのシグナルで活性化されるErbBファミリー下流シグナル経路の同定、酸素濃度による活性化シグナルの変化を検索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は2020年度~2022年度の期間で採択されたものであるが、新型コロナウイルスパンデミックのために2020年度に購入予定であった遠心機が2021年度になり、さらに当科で保存していた口腔癌細胞株の調整に時間を要し、計画した研究の開始が大幅に遅れた。このため研究期間を1年間延長し、申請期間中に使用しなかった助成金を2023年度に繰り越した。 2023年度の助成金使用計画は、実験試薬購入費(細胞培養試薬、タンパク分析試薬、mRNA分析試薬、低酸素培養キット)、ヌードマウス購入費、学会出張費(2023年5月12日~13日第77回日本口腔科学会総会・学術大会、岡山市と2023年11月10日~13日第68回日本口腔外科学会総会・学術大会、大阪市)、論文校閲費・投稿料として使用する。
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