研究課題/領域番号 |
20K10175
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐藤 千晴 北海道大学, 大学病院, 講師 (50222013)
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研究分担者 |
菊地 奈湖 (間石奈湖) 北海道大学, 歯学研究院, 助教 (00632423)
ANNAN DORCAS・AKUBAMUHYIA 北海道大学, 歯学研究院, 学術研究員 (30837240) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / 血管ニッチ / 口腔がん / 腫瘍血管内皮細胞 |
研究実績の概要 |
申請者らはこれまで腫瘍血管を裏打ちする腫瘍血管内皮細胞を分離・培養し,その性質を解析することで様々な異常性を見出してきた.DNA microarray解析により正常血管内皮に比べて腫瘍血管内皮において発現が亢進している遺伝子として複数の腫瘍血管内皮マーカーを同定している.がん幹細胞の維持に重要なCOX-2やSDF-1,IL-6などのangiocrine factorとよばれる様々なサイトカインの発現も口腔がんの腫瘍血管内皮において亢進していることを見出しており,さらに腫瘍血管内皮から分泌されるBiglycanがパラクラインでがん細胞に作用し,がんの血管内侵入ならびに肺転移を促進することを報告した.本研究では,口腔がん幹細胞と口腔がん血管内皮細胞の間にもCross talkが存在するのではないかと着想した. これまで見出してきた腫瘍血管内皮細胞の特徴を踏まえ,口腔がんにおいて腫瘍血管内皮 細胞が様々なangiocrine factorを分泌してがん幹細胞ニッチを形成していると仮説を立てて,それらの分子機構を明らかにし,口腔がん幹細胞血管ニッチを標的とした新しいがん治療法を検討する. 近年,がん幹細胞と血管内皮細胞との相互作用に関する研究が行われ始めている.しかし, それらは正常血管内皮細胞を用いた研究であり,腫瘍血管内皮細胞を用いた解析は行われていない.申請者らはこれまで腫瘍血管内皮が様々な点で正常血管内皮とは異なる性質を持つことを報告しており,腫瘍血管内皮を用いたがん幹細胞との相互作用解析は,独創的でよりがん微小環境を反映した結果が期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで,がん幹細胞の抗がん剤耐性や未分化能の維持に,腫瘍血管内皮細胞がどのように関与しているのかを分子メカニズムについて研究を進めている.ヒト口腔がん細胞株を用いて,上記がん幹細胞マーカーの発現やALDH活性などを指標に,フローサイトメーターFACS AriaⅡを用いてがん幹細胞を分離した.腫瘍血管内皮細胞はヒト口腔がん細胞株のマウス移植モデルから腫瘍血管内皮細胞を分離する.分離には,磁気細胞分離装置MACSとセルソーターFACS AriaⅡを用いてCD31+CD45の血管内皮分画を採取した. これらの細胞を用いて共培養系で腫瘍血管内皮細胞液性因子に対する癌幹細胞の生存やアノイキス耐性などを解析した.正常血管内皮細胞に比較して腫瘍血管内皮細胞では癌幹細胞の生存能を亢進させる因子を発現していることが示された. また,癌組織においてがん幹細胞の局在について,組織免疫染色法により可視化し,腫瘍血管との位置関係を解析した.血管内皮細胞はCD31もしくはCD34で可視化し,がん幹細胞は幹細胞マーカーとして口腔がんで報告のあるCD133,CD44,または最近がん幹細胞マーカーとして用いられているALDHを用いた.腫瘍血管のうちファクターXなどを高発現しているものの近傍に癌幹細胞が局在している傾向がみられた.今後その分子機構を解析する.
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今後の研究の推進方策 |
腫瘍血管の炎症シグナルの亢進やangiocrine factor Biglycanが, がん幹細胞にどのように働くのか分子機構を解析する.担癌マウスに抗がん剤治療を行い,がん組織においてがん幹細胞が生き残り,さらに腫瘍血管内皮マーカーXががん幹細胞の維持や抗がん剤抵抗性に及ぼすメカニズムを探る. Xのノックダウン細胞を用いたin vitroの系での解析を,血管内皮細胞と癌細胞の接着アッセイ,血管内皮細胞への遊走アッセイなどにより検証する.また,非接着性プレートを用いた培養システムにより,癌幹細胞のアノイキス耐性における腫瘍血管内皮細胞分泌因子やマトリックス成分について解析を進める.最後に腫瘍血管内皮細胞と癌細胞の共培養系を用いて抗癌剤への耐性を解析する. がんの再発・転移の原因となり得るがん幹細胞および血管ニッチの役割を理解することは,がん治療において多大な貢献をもたらすものと思われる.また,それらを基盤としたがん幹細胞血管ニッチ標的治療法の開発は,抗がん剤耐性や放射線治療抵抗性を回避することにつながり,がん患者のQOL向上,さらには医療費削減をもたらし,大きな社会貢献につながると考えられる.
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次年度使用額が生じた理由 |
高額な設備備品の購入を延期したことや、コロナ禍による学会旅費や謝金等の支払いが殆ど無かったことで次年度使用額が生じたと考えている。 翌年度分として請求した助成金と合わせて、設備備品や高額なマウス、試薬などの購入を考えており、研究計画に大きな変更をきたすことは無いと思われる。
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