研究課題
申請者らはこれまで腫瘍血管を裏打ちする腫瘍血管内皮細胞を分離・培養し,その性質を解析することで様々な異常性を見出してきた.DNA microarray解析により正常血管内皮に比べて腫瘍血管内皮において発現が亢進している遺伝子として複数の腫瘍血管内皮マーカーを同定している.がん幹細胞の維持に重要なCOX-2やSDF-1,IL-6などのangiocrine factorと読ばれる様々なサイトカインの発現も口腔がんの腫瘍血管内皮において亢進していることを見出しており,さらに腫瘍血管内皮から分泌されるBiglycanがパラクラインでがん細胞に作用し,がんの血管内侵入ならびに肺転移を促進することを報告した.本研究では,口腔がん幹細胞と口腔がん血管内皮細胞の間にもCross talkが存在するのではないかと着想した.これまで見出してきた腫瘍血管内皮細胞の特徴を踏まえ,口腔がんにおいて腫瘍血管内皮細胞が様々なangiocrine factorを分泌してがん幹細胞ニッチを形成していると仮説を立てて,それらの分子機構を明らかにし,口腔がん幹細胞血管ニッチを標的とした新しいがん治療法を検討している.2020年度は,癌組織において血管内皮細胞の近傍にがん幹細胞が存在することを組織免疫染色で確認した.また,ヒト口腔癌細胞株におけるがん幹細胞集団と,癌組織における腫瘍血管内皮細胞をセルソーターを用いて分離した.2021年度は,腫瘍血管内皮細胞において正常血管内皮細胞よりも高く発現するAngiocrine factorに着目し,それらががん幹細胞の近傍に位置する血管に発現していることを組織免疫染色で観察した.また,そのAngiocrine factorががん細胞に及ぼす影響を検討した.さらにがん幹細胞の抗癌剤耐性に対する血管内皮細胞の関与について検討した.
2: おおむね順調に進展している
これまで,がん幹細胞の抗癌剤耐性や未分化能の維持に,腫瘍血管内皮細胞がどのように関与しているのか分子メカニズムについて研究を進めている.腫瘍血管内皮細胞において正常血管内皮細胞よりも高く発現するAngiocrine factor Xに着目し,それらががん幹細胞の近傍に位置する血管に発現していることを組織免疫染色で観察した.さらに,そのAngiocrine factor Xががん細胞に及ぼす影響をin vitroで検討した.がん細胞にAngiocrine factor Xのリコンビナントタンパクを処理するとがん細胞のNF-kBシグナルが活性化し,生存能や遊走能が亢進することが明らかになった.またXをノックダウンした腫瘍血管内皮細胞に対するがん細胞の遊走能が抑制された.一方で,Xをノックダウンした腫瘍血管内皮細胞への接着性には大きな変化は見られなかった.したがって,Angiocrine factor Xは癌細胞の生存能や遊走能を亢進させることが示唆された.さらに,がん幹細胞の抗癌剤耐性に対する血管内皮細胞の関与について検討した.がん細胞と血管内皮細胞の共培養系において,シスプラチンなどの抗癌剤を処理すると,がん細胞においてがん幹細胞マーカーの発現が亢進した.一方で,がん細胞単独培養だと抗癌剤処理によるがん幹細胞マーカー発現亢進は見られず,血管内皮細胞由来因子が関与していることが示唆された.さらに,がん細胞と血管内皮細胞の共培養系において,シスプラチンを処理すると,がん細胞の他の抗癌剤(パクリタキセルなど)に対する感受性が低下し,さらに抗癌剤に対する抵抗性の増強が示唆された.今後,血管内皮細胞ががん幹細胞の抗癌剤耐性増強に及ぼす影響についてさらに詳細な検討を行う予定である.
腫瘍血管由来Angiocrine factorが,がん細胞のがん幹細胞に抗癌剤耐性や未分化能の維持にどのように働くのか分子機構を解析する.担癌マウスに抗癌剤治療を行い,がん組織においてがん幹細胞が生き残り,さらにAngiocrine factorががん幹細胞の維持や抗癌剤抵抗性に及ぼすメカニズムを探る.また,そのAngiocrine factorの阻害により,がん細胞の幹細胞性や抗癌剤耐性を阻害できるかどうか,in vitroおよびin vivoで検討する.非接着性プレートを用いた培養システムにより,癌幹細胞のアノイキス耐性におけるAngiocrine factorやマトリックス成分について解析を進める.これらで得られた知見がヒト臨床検体においてもあてはまるかどうか,がん患者臨床検体を用いて組織学的に解析する.がんの再発・転移の原因となり得るがん幹細胞および血管ニッチの役割を理解することは,がん治療において多大な貢献をもたらすものと思われる.また,それらを基盤としたがん幹細胞血管ニッチ標的治療法の開発は,抗がん剤耐性や放射線治療抵抗性を回避することにつながり,がん患者のQOL向上,さらには医療費削減をもたらし,大きな社会貢献につながると考えられる.
本年度も高額な設備備品の購入を延期したことや、コロナ禍の影響により学会旅費や謝金等の支払いが殆ど無かったことで次年度使用額が生じたと考えている。翌年度分として請求した助成金と合わせて、設備備品や高額なマウス、試薬などの購入を考えており、研究計画に大きな変更をきたすことは無いと思われる。
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Cancer Sci.
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