研究課題/領域番号 |
20K10177
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
丹羽 均 大阪大学, 歯学研究科, 教授 (30218250)
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研究分担者 |
前川 博治 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (10711012)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | パーキンソン病 / 痛覚過敏 / 視床下部室傍核 / 疼痛関連行動 |
研究実績の概要 |
パーキンソン病(PD)は、高齢者における主要な神経変性疾患のひとつであり、黒質細胞で産生される神経伝達物質であるドパミンが減少し、運動の制御機構である黒質線条体系が正常に機能しなくなる疾患である。PDの主要症状は運動障害であるが、近年、非運動障害としての「痛み」が注目されている。 本研究の目的は、左側の内側前脳束に6-OHDAを投与し作製したPDモデルラットでみられる痛覚過敏のメカニズムを解明するため、黒質線条体系のドパミンの枯渇による室傍核(PVN)の機能低下が、PVNにおけるオキシトシン(OXT)、バゾプレシン(AVP)、および副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)を介した疼痛制御機構にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにすることである。 当該年度においては、片側PDモデルラットを作製し、行動学的、および免疫組織学的分析により以下の点を明らかにした。①脳の凍結切片をtyrosinehydroxylase染色を行い、片側の黒質-線条体のドパミン産生ニューロンの脱落を確認した。②片側PDモデルラットの左側上口(唇眼窩下神経領域)においてホルマリンテストを行い、注射後の顔面こすり運動などの疼痛関連行動(PRB)を観察したところ、PDモデルラットは痛覚過敏状態にあることが判明した。③ホルマリンテスト後、三叉神経脊髄路核(Vc)におけるのc-Fos発現は有意に増加し、一方、PVNののc-Fos発現は減少していた。④PVNで産生されるオキシトシン(oxytocin:OXT)に注目し、ホルマリンテスト後のOXTの血中濃度を測定したところ、PDラットでは血中OXT濃度の上昇が抑制された。 以上の結果より、PDのデルラットでみられた痛覚過敏にOXTの分泌低下が関連している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初は、新型コロナウイルス感染拡大によるテレワークのため実験が実施できず、大幅に研究の開始が遅れた。しかし、後半からは順調に進み、当初の計画に近い状況まで挽回することができた。
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今後の研究の推進方策 |
視床下部室傍核(PVN)は多彩な生理機能を有しており、OXTのみならずバゾプレシン(arginine vasopressin: AVP)や副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(corticotrophin-releasing hormone: CRH)の3種類の神経ペプチドを産生・分泌する神経が分布している。これらの神経ペプチドも少なからず痛みの制御に関連することが示されており、PDモデルラットでみられた痛覚過敏のメカニズムを解明するためには、「黒質線条体系のドパミンの枯渇が、PVNによるOXT、AVP、およびCRHを介した疼痛制御機構にどのような影響を及ぼしているのか?」を明らかにする必要がある。 今後の研究計画として、PVNにおけるOXT、AVP、CRHの発現状況を検討するため、PVNにおけるOXT、AVP、CRHの発現を免疫蛍光抗体法で観察する。さらに、PVNでのc-Fos発現と重ね合わせ、各神経ペプチドとの共存性を検討する。加えて、ERISAにて血中のOXT、AVP、CRH を測定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は新型コロナウイルス感染拡大のため、テレワーク等により研究のスタートが大幅に遅れ、その分、物品購入費が少なくなった。また、情報収集のための海外出張が中止となり、その旅費に残額が生じた。これらの理由により、次年度使用額が生じた。 次年度は、当初より研究を実施し、物品購入費の増加も見込まれる。ただし、海外出張のめどが立っていないため、Webで開催される学会等に参加し、情報収集に努める予定である。
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