研究実績の概要 |
口腔内の病原菌、特に歯周病原菌が様々な全身疾患の誘因や増悪因子となることが明らかとなっている。糖尿病や膵臓がんなど膵臓に関わる疾患の発症や増悪に関与することが示唆されてきているが、そのメカニズムは明らかとなっていない。本研究では、口腔内病原菌である歯周病原菌Porphyromonas gingivalis (P. g) 由来内毒素(Lipopolysaccharide; LPS)および菌体の影響による膵臓疾患関連遺伝子を同定することを目的とした。 初年度は、P. g由来LPSを5.0 mg/kgの濃度で8-10週齢のC57BL/6J雄性マウスへ3日毎に30日間腹腔内投与し(LPS投与群)、対照群には生理食塩水を投与した。膵臓のtotal RNAを用いてマイクロアレイ網羅的解析を行い、発現上位10遺伝子を検索した結果、膵臓がん関連遺伝子のRegenerating islet-derived protein 3 gamma (Reg3G)が該当した。次年度は、発現上位10遺伝子およびReg3Gと高い相同性のあるReg3Aについて、定量的PCR法によるmRNA発現解析を行った。その結果、mRNA発現上昇が確認されたものはIghg3,Igκ,Iglv1, Reg3A,Reg3Gであった。次いで、Reg3A/Gタンパク発現変化の検討を抗Reg3A/G抗体を用いた免疫組織化学染色で行った。その結果、LPS投与群の膵臓ランゲルハンス島の外縁付近に陽性反応を認めた。最終年度は、P. g(1×109CFU)を投与し、屠殺後、膵臓を採取し、RNA-Seqによる遺伝子発現量の評価を行った。Ahsg, Schip1, Gm10143など33遺伝子が発現上昇、Eva1c, Igkv3-2, Dtlなど43遺伝子が発現低下した。これらの変化に関わるパスウェー解析を行なったが、パスウェーは検出されなかった。また、Reg3A/Gの変化も認められなかった。 以上より、P. g由来LPSは膵臓のReg3A/Gの遺伝子発現を増加させ、膵臓がんの発症や進行に関与している可能性があることが示唆された。
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