研究課題/領域番号 |
20K10203
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
香西 克之 広島大学, 医系科学研究科(歯), 名誉教授 (10178212)
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研究分担者 |
岩本 優子 広島大学, 医系科学研究科(歯), 助教 (00748923)
光畑 智恵子 広島大学, 医系科学研究科(歯), 准教授 (10335664)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 小児う蝕 / ヒト苦味受容体 / TAS2R / 遺伝子 |
研究実績の概要 |
齲蝕発症には齲蝕原因菌,食物中のショ糖およびホストである歯の耐酸性,さらには時間因子(習慣)の多因子が関わっている。そのため齲蝕予防は以前より各因子対してアプローチする形で対策が行われてきたが,多様な生活環境をはじめとしたそれぞれの因子を科学的に制御することは難しく,未だに齲蝕をゼロにすることはできていない。 苦味受容体は口腔内で味覚をつかさどる受容体の1つであるが、口腔以外の器官にも存在し、免疫に関与していることが報告されている。齲蝕発症の新規抑制因子として苦味受容体をターゲットとし、とくに味覚発達期にある小児を対象として苦味受容体の分布量や変異と齲蝕発症動態について明らかにすることで、齲蝕抑制への関与やそのメカニズムについて明らかにすることを目的としている。苦味受容体が、苦味物質の認識を行うと同時に、齲蝕原因菌などの口腔内の感染に対する防御機構として機能していることが期待される。 これまでの研究計画はコロナ禍により変更を余儀なくされ,当初令和4年度までであった研究期間を,延長することとなった。 令和4年度には,当小児歯科診療室を受診した重症齲蝕の低年齢(5歳未満)児と主養育者ならびに同年齢で齲蝕のない患児とその主養育者の口腔内粘膜細胞を採取し,そのゲノムDNAから次世代シークエンサーを用いて25種類のTAS2Rについてシークエンス解析を行うことで,低年齢重症齲蝕児の苦味受容体の変異解析を行うことを計画し,その準備を進めてきた。一方で,コロナ禍による受診控え等も影響して対象が十分集まっていないのも事実である。また,水と砂糖水とで飼育を行ったマウスの両群における舌上の苦味受容体の発現量について解析を行う準備も実施した。 また,少しずつ学会の対面開催も実施されるようになってきており,実験のための情報収集や打ち合わせ等もあわせて実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究代表者は定年退職後,学外からの研究者として研究を継続しているが,新型コロナウイルス感染症感染対策として,学外からの研究室への出入が制限される期間が続いていた。動物実験についても同様に,新規の飼育や研究が始められない等の制限があった。予定していた退職後の研究体制が計画通りに遂行できなくなり,研究の遂行が遅れ,今回研究期間を延長するに至った。
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今後の研究の推進方策 |
<実験1> 低年齢重症齲蝕児と両親(養育者)の苦味受容体の変異解析: 低年齢(5歳未満)の重症齲蝕児10名と養育者ならびに同年齢で齲蝕のない患児10名とその家族の口腔粘膜より粘膜細胞を採取し,NucleoSpin DNA Forensic(タカラバイオ(株))を用いてゲノムDNAを抽出・精製 し,次世代シークエンサーを用いて苦味受容体の変異の解析を行う。 <実験2> 変異苦味受容体変異体の in vitro での解析: 変異(+)の患児の唾液からRNAを回収し,ターゲット遺伝子のcDNAを構築したのち,哺乳類細胞での発現ベクターを作製する。HEK293細胞に一過性にコンストラクトを発現させ,苦味物質を添加することでの細胞応答として、細胞内のカルシウムの動向,一酸化窒素の萌出、ディフェンシンの放出等を比較検討する。 <実験3> 実験動物を用いた味覚受容体の量的変動解析: 妊娠マウスを2グループに分けて妊娠期より水(W群)、砂糖水(S群)で 飼育する。 実験3-1 : 苦味受容体の発現量を解析:仔マウスを離乳後,2グル―プに分け, 水(WW群・SW群),砂糖水(WS群・SS群)で飼育を行う。舌組織よりゲノム・RNAを抽出し、苦味受容体の発現量を解析する。 実験3-2: 苦味受容体の発現量とその変化を解析:飼育中に砂糖水から水に変更し,その後、全身的な変化ならびに舌組織よりゲノム・RNAを抽出・精製し,苦味受容体の発現量とその変化を解析する。 実験3-3: 免疫応答と苦味受容体の発現量の変化:上記条件での飼育したマウスに対し免疫応答を高めた後 脾臓を取り出し,各種サイトカインの測定を行い,それぞれの群間を比較検討する。 すべてのデータをまとめ,齲蝕感受性の有無による苦味受容体 TAS2R 遺伝子の発現量と齲蝕抑制との関係と分子メカニズムを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の中で,研究代表者が定年退職後、学外からの研究室への出入が制限される期間が続き,予定していた研究体制が計画通りに遂行できなかったため,研究期間を延長した。 次年度にはこれまで未執行の予算を用いて,遅れている実験を急ぎ実施する。予算はほとんど消耗物品費に充てることになるが,具体的には,マウス及び飼料,ゲノム抽出,RNA解析などの分子生物学的実験用試薬およびディスポ器具,次世代シークエンサーのための試薬購入に充てる。また学会出張が可能となってきたため,研究発表や研究打合せ旅費に充てることとする。
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