研究課題/領域番号 |
20K10210
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
窪田 直子 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 客員研究員 (40569810)
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研究分担者 |
佐藤 正宏 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, ゲノム医療研究部, 共同研究員 (30287099)
稲田 絵美 鹿児島大学, 医歯学域鹿児島大学病院, 講師 (30448568)
野口 洋文 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50378733)
齊藤 一誠 朝日大学, 歯学部, 教授 (90404540)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 遺伝子工学的手法 / アルカリホスファターゼ / ヒト乳歯歯髄細胞 |
研究実績の概要 |
本研究では、先天的にアルカリホスファターゼ(ALP)活性が低下した低ホスファターゼ症(HPP)患者由来の乳歯歯髄細胞(HDDPC)(以下、HPP-HDDPC)と健康小児由来のHDDPC(以下、N-HDDPC)における多分化能性などの特性を比較検討することで、ALPの存在意義を確認することを目的とする。さらに、HPP-HDDPCにALP発現ベクターを遺伝子導入し、HDDPCの本来の多分化能性の回復を試みることで、「多分化能性維持におけるALPの役割を明らかにする」ことを目的とする。 2020年度では、一部のHPP-HDDPCの特性解析とHPP-HDDPC へのALP発現ベクターの遺伝子導入実験を行った。HPP-HDDPCについてALP活性検出のための細胞化学染色を実施した結果、ALP陽性は認められなかった。一方、山中4因子搭載プラスミドをエレクトロポレーション法にてHPP-HDDPCに導入した結果、iPS細胞は樹立できなかった。ALP cDNA発現ユニットを搭載したpiggyBac(PB)系トランスポゾンベクターpT-TNSALPをHPP-HDDPCに遺伝子導入後、ALP細胞化学染色を実施した結果、ALP陽性細胞の出現を確認した(この株をALP(+)HPP-HDDDPCとする)。 2021年度では、上記ALP(+)HPP-HDDDPC株を維持・増殖させた後、HPP-HDDDPC、N-HDDPCを加え、分化誘導剤添加による多分化能性の有無を検討した。結果、N-HDDPCは神経、骨への分化を認めたが、脂肪へは分化しなかった。一方、HPP-HDDDPC、ALP(+)HPP-HDDDPCは神経への分化を認めたが、骨へは分化しなかった。また、わずかに脂肪への分化を認めた。この時点でALP(+)HPP-HDDDPCでのALP発現の有無を確認したところ、発現を認めなかったことから、細胞の維持・増殖の段階でALP活性を失った可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度はHPP-HDDPCを取得した。ALP発現の有無を市販のALP活性検出キットを用い確認した結果、ALPの発現を認めなかった。この細胞に山中4因子(Oct-3/4, Sox2, Klf4, L-Myc)搭載プラスミドをエレクトロポレーション法にて導入後、常法にて培養を行ったが、iPS細胞の樹立はできなかった。この結果は、我々が考えた仮説(ALP低活性細胞はiPS化しにくい)を裏付けた。 次に、HPP-HDDPCにALP発現ベクターの遺伝子導入を試みた。ALP cDNA内蔵ベクターをAddgeneより購入し、これに哺乳類細胞への遺伝子導入効率が高いとされるトランスポゾンの一種PBに導入し、トランスポゾンベクターpT-TNSALPを作成した。pT-TNSALPをHPP-HDDPCに遺伝子導入後、ALP染色を実施した結果、ALP陽性細胞の出現を確認した。以上から、従来ALP活性の無いHPP-HDDDPCにALP発現ベクターを導入することで、ALP陽性細胞(ALP(+)HPP-HDDDPC)を作製できることが判った。 2021年度では、ALP(+)HPP-HDDDPCを維持・増殖した後、多分化能を検証する実験を行った。HPP-HDDDPC、ALP(+)HPP-HDDDPC、N-HDDPCについて、神経分化誘導培地、骨分化誘導培地、脂肪分化誘導培地で10日~14日間培養し、細胞分化の有無を確認した。その結果、N-HDDPCは神経、骨への分化を認めたが、脂肪へは分化しなかった。一方、HPP-HDDDPC、ALP(+)HPP-HDDDPCは神経への分化を認めたが、骨へは分化しなかった。また、わずかに脂肪への分化を認めた。ALP(+)HPP-HDDDPCはN-HDDPCと同様の分化程度を示すことを期待していたが、予想に反する結果となった。これは、培養過程でALP成分が脱落したことに起因すると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
ALP(+)HPP-HDDDPCがN-HDDPCと同様の多分化能を示さなかったので、改めてALP(+)HPP-HDDDPCについてALP発現の有無を確認した。結果、ALP発現を認めなかった。このことから、ALP(+)HPP-HDDDPCの維持・増殖の段階でALP活性を失った可能性が考えられる。 2022年度では引き続き、ALP(+)HPP-HDDDPC株取得を継続する。ALP(+)HPP-HDDDPC株が安定的にALP活性を示すことを確認した時点で、in vitroでの多分化能性の検討、iPS細胞形成能の有無(山中4因子導入によりiPS細胞が樹立できるかどうか)を検討する。ALP発現ベクターの遺伝子導入によりHPP-HDDPCが多分化能やiPS細胞形成能を獲得すれば、HDDPCにおいてALPは細胞の多分化能性の維持に関与し、かつ、Wnt経路におけるsignal regulatorとしての役割を担っている可能性があると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は細胞の遺伝子発現解析の機会が増える見込みである。また、成果については、学会発表、論文作成、その投稿を予定している。そのため、次年度使用額として翌年度分に助成金を持ち越した。よって、持ち越した研究費は細胞培養用試薬、分子生物学用酵素等の消耗品購入、学会参加費、出張費、論文校正、論文掲載費用に充当する予定である。
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