本研究は、ヒト乳歯由来歯髄幹細胞から分泌されるサイトカインや成長因子、ケモカイン、エクソソームなどの生理活性分子群が、エストロゲン欠乏によって引き起こされる骨組織、つまり骨組織のリモデリングにおける骨吸収の促進に対して抑制効果を有することを明らかにした。昨年度までの研究結果として、卵巣摘出によるエストロゲン欠乏によって発症した骨粗鬆症モデルマウスに対して、ヒト乳歯由来歯髄幹細胞の培養上清液を腹腔内に投与したところ、骨量の減少が有意に抑制されることを報告した。さらに、解析を進めたところ、エストロゲン欠乏によって引き起こされる骨量の減少が抑えられるだけでなく、卵巣摘出後に起こる皮下脂肪の増加が、ヒト乳歯由来歯髄幹細胞の培養上清液を腹腔内に投与することで、抑えられることが判明した。卵巣摘出10週後のマウス群の体重増加率が14.12±5.59 %であったのに対して、ヒト乳歯由来歯髄幹細胞の培養上清液を投与したマウス群の体重増加率は7.95±4.81 %であり、有意に体重の増加が抑制されていた。さらに、マウス骨髄由来間葉系幹細胞を用いた脂肪細胞への分化誘導実験では、ヒト乳歯由来歯髄幹細胞の培養上清液を脂肪細胞分化培養液に加えると、誘導された脂肪細胞の数が有意に減少した。以上の研究結果から、ヒト乳歯由来歯髄幹細胞の培養上清液中に含まれる生理活性分子群は、骨粗鬆症の進行を抑制する効果だけでなく、脂肪の増加を抑制する効果があることが判明した。
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