研究実績の概要 |
WNTは、体軸形成、器官形成、細胞増殖・分化を制御するなどの、様々な生体機能調節に関与する分泌型糖タンパク質であり、そのシグナル伝達経路もよく研究されている。WNTファミリーメンバーであるWNT10AとWNT10Bは歯牙欠損症の原因遺伝子として同定されたが、それぞれの遺伝子破壊マウスでは歯数減少を示さなかった。一方、研究代表者の作製したそれらダブルノックアウトマウスでは一部歯の欠損を認めた。本研究では、WNTと歯の発生に関して、ゲノム編集技術を利用しながら、遺伝子機能喪失と表現型スペクトラムとの関連を中間表現型である遺伝子発現プロファイル変化を介して詳細に解明するin vivo 分子機能アノテーションを行うことで、各遺伝子ならびに歯牙欠損に関する分子的理解を深化させることを目指し研究を行った。 ゲノム編集技術を用いWnt10aとWnt10bのダブルKOマウス(Wnt10a-/-;Wnt10b-/-)を作製したところ、単独欠失変異体と異なり、上顎切歯・第三臼歯が欠失した。上顎第二臼歯・下顎切歯も矮小化しており、また、歯冠形態はWnt10a-/-同様平坦でタウロドントを呈し、さらに各々の変異体では認められなかった体長の減少も生じた。この結果は、Wnt10aとWnt10bのパラログ間での機能の重複・補完を示唆するものでもある。 次に、Wnt10a+/-;Wnt10b+/-,Wnt10a-/-;Wnt10b+/-, Wnt10a+/-;Wnt10b-/-を作製した。Wnt10a+/-;Wnt10b+/-は全く表現型を示さなかった。Wnt10a-/-;Wnt10b+/-はWnt10a-/-とほとんど同じ表現型だったが、歯冠形態はより平坦でタウロドントの程度も重かった。歯数変化は認めなかった。一方、Wnt10a+/-;Wnt10b-/-では、下顎diastimaに過剰歯を確認した。
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