研究課題/領域番号 |
20K10242
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小関 一絵 東北大学, 歯学研究科, 大学院非常勤講師 (40400262)
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研究分担者 |
丹田 奈緒子 東北大学, 大学病院, 助教 (00422121)
岩永 賢二郎 東北大学, 歯学研究科, 助教 (20448484) [辞退]
小関 健由 東北大学, 歯学研究科, 教授 (80291128)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 齲蝕 / 硬度 / 硬組織 / リスク検査 / エナメル質 |
研究実績の概要 |
現行の齲蝕リスクの宿主要因は、歯の齲蝕抵抗性に関わるフッ化物の応用や唾液分泌量と性状が挙げられるものの、歯硬組織自体の性状評価の項目は欠落している。これは、硬組織性状を簡便に非侵襲・非破壊に検査する方法が無かったためである。我々は、齲蝕抵抗性に歯の物理化学的性状が関連するとの考えから、作業仮説「歯の硬度は齲蝕発生リスクに関与する」ことを本研究で検証する。この解明には、(1) 歯の硬さは何の影響を受けているか、(2) 齲蝕リスクは歯の硬さで予測できるか、の2課題を本研究で取り組む。歯の硬度計測には、当教室で開発した超音波硬組織硬度診断装置等を用いて計測する。対象は、世界で4番目の10万人大規模コホート調査「子どもの健康と環境に関する全国調査」(エコチル調査)に参加している宮城ユニットの9千人の中から、宮城ユニット独自の追加調査に協力をいただける3.6千人の子どもを横断調査の対象とし、口腔内状態の情報を含めて脱落乳歯を回収し、それの硬度を調査する。また同時に、幼稚園・保育所の歯科健康診査時に、乳前歯の硬組織硬度の計測を実施し、その児の口腔状態調査も実施する。この結果に基づいて、歯の硬度と蝕発生リスクについて検証する。これらの結果から、もし「歯の硬度は齲蝕発生リスクに関与する」ならば、齲蝕予防プログラムの参加者を絞ってハイリスクアプローチの保健指導・予防管理システムを構築できることとなり、より高度で効果的な個別医療・個別予防の社会での実装の基礎研究となることが考えられる。これらの成果から、エナメル質の成熟度に関する評価に基づき、フッ化物を始めとした硬組織の再石灰化促進法の開発を推進する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究実施内容については、仙台市内・仙台市近郊の幼稚園・保育所10施設の5歳児(年長児)224名の歯科健康診断時に、口腔内診査後に上顎右側A、もしくはその同名対側歯の唇側中央の歯面の超音波硬度測定装置を用いて計測した表面硬度、更に、仙台市内・仙台市近郊の工業専門学校の3年生(17歳)192名、5年生(19歳)182名を対象に、学校歯科健康診断実施時に、上顎右側中切歯唇面中央の表面硬度計測のデータが取得済みであるが、このデータと生活習慣や食生活との関連の解析を実施した。更に、仙台市内・仙台市近郊の工業専門学校では、前向きコホート調査に活用できる、同一生徒の歯科健康診査を実施している。これらの解析は、強い明白な関連を示す調査項目は単独では存在しなかったが、う蝕は多因子疾患の疾病であり、それぞれ生活環境の違いをカテゴリー化して郡別に解析する必要が考えられ、現在その作業を進行中である。 さらに、環境庁エコチル調査の宮城ユニットへ参加者の、エコチル調査本調査で収集した脱落乳歯の内、宮城ユニットの追加調査参加者の乳歯硬度計測を昨年度に継続して行った。対象乳歯は、国立環境研究所内エコチル調査コアセンターで保管されており、センターへ出張して収集乳歯の内、上顎左右側乳犬歯の頬側面遠心側の比較的平滑な部位を選択し、超音波硬度計測装置を用いて表面硬度を計測した。現時点でも、エコチル調査コアセンターへの乳歯の送付が計測している。エコチル調査宮城ユニット追加調査では、妊娠時からの口腔に関する行動意識調査を実施しているので、これらの結果も収集して解析を行い、硬度計測結果に関与する口腔内情報として、歯の萌出と発育の関連の指標を検索した。
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今後の研究の推進方策 |
研究は、当初の計画から延長し、令和6年度を最終年度として研究を進めていく。この延長によって、国立環境研究所内エコチル調査コアセンターにて超音波硬度計測した乳歯の数が大きく増加し、多因子疾患のう蝕の発生への硬度の関与の調査により多数のサンプルを提供できる事となった。令和6年度においても、国立環境研究所内エコチル調査コアセンターでの乳歯の超音波硬度計測を継続してサンプル数を最大限に増加することにより、より精度を上げた多因子重回帰分析を実施する。更に、仙台市近郊の工業専門学校での歯科健診の実施により継続したう蝕発生の前向きコホート調査を継続し、精度の高い生活習慣等との関連を冢宰してゆく。年度後半は、すべての調査データを突き合わせて、幼児の乳歯から青年の永久歯の上顎前歯の表面硬度と関連する口腔内診査結果、日常生活調査・歯科保健意識 行動調査等のデータを統合・整理を実施して、歯の硬度が齲蝕発生に関与するリスクを統計学的に検証する発育状態・生活習慣等の因子を抽出する。これは、この研究の問いである、(1) 歯の硬さは何の影響を受けているか、(2) 齲蝕リスクは歯の硬さで予測できるか、の2課題への回答となり、歯の硬度とう蝕の関連も解明を目指す。また、抽出されたう蝕関与項目を整理し、う蝕予防に関わる最新の情報発信する方策と、う蝕予防に効果的な行動様式や生活習慣を提言し、更に歯の硬度が直接的にう蝕発生に関わるとの結論が出た場合は、歯の硬度とう蝕に関する啓発活動に資する調査結果を示す。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19感染症が5類に再分類されたことにより、多くの研究遂行への障害が開場されると考えられたが、感染症に対する警戒心が薄れることはなく、十分な予防策を忘れないようなポストコロナの社会・生活様式が定着したように思われる。本研究も年度の後半には、制限の解除が進んだものの、年度前半はこれまで同様の警戒態勢であった。これは、乳児や青年たちの疫学調査の遅延を招くことになるので、研究の中心をデータ整理と解析に軸足を変えて研究を推進してきた。幸いなことに、実験期間を延期することで、エコチル調査対象者の脱落乳歯硬度測定も、参加者の人数をより増やして精度を上げることが可能になり、コホート調査も延長する事ができ、この実験にも実験期間を通して取り組んでいく。
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