研究課題/領域番号 |
20K10246
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
葛城 梨江香 新潟大学, 医歯学総合研究科, 特任助教 (40584769)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 酸素安定同位体比 |
研究実績の概要 |
本研究は歯エナメル質に蓄積される酸素安定同位体比δO 18を高精度に測定する方法を確立し、詳細な検討を加えることで人種や生活地域を推定する新たな身元推定法の開発を目的としている。本年度の検証内容は以下のとおりである。法医解剖事例において、大陸居住者から採取された歯と、国内出身者として新潟県居住者から採取された歯のエナメル質に蓄積される酸素安定同位体比の比較・検討を行った。歯エナメル質の酸素安定同位体はリン酸銀として精製し、安定同位体比質量分析装置による測定を行った。その結果、両者の歯エナメル質に含まれる酸素安定同位体比に有意な差が見られることが明らかとなった。これらの違いは、過去の様々な報告でも示唆されているように、主に飲水を採取する水系の違いに起因すると考えられた。調査を行った大陸居住者と新潟県内居住者(国内出身者)においては、その口腔内の歯科的特徴が異なる傾向が見られ、当教室で進行中の研究結果からも明らかな違いがあると示唆されている。以前から、その肉眼的な歯の特徴や所持品等により両者が区別されていたが、今回、歯エナメル質の酸素安定同位体比の違いが明らかとなったことで、両者の識別において歯の成分分析から身元を明らかにするという、より正確な個人識別手法の開発の実現性について確認することができた。本年度は実験手法の調整に時間を要したため対象事例の一部のみ検討を行っているが、引き続き対象事例の分析および検討を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
標準試料によるリン酸銀の精製状態を評価したところ、精製に不具合があり実験方法の見直しや調整等を行ったため、当初予定していた分析時期よりやや遅れたものの、大陸居住者については採取した全例、比較対象である新潟県居住者については大陸居住者とほぼ同数の事例について既に試料調製を行い、分析中である。
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今後の研究の推進方策 |
申請の通り、新潟県内居住者についてさらに詳細な検討を加える。新潟県は多様な水系が見られ、当教室での研究結果から水源により水の酸素安定同位体比が異なることが示唆されている。つまり、生活地域によって歯エナメル質の酸素安定同位体比に変動性があると考えられる。新潟県居住者の法医解剖事例の歯について、生活地域の水源に基づいて分類し、歯エナメル質の酸素安定同位体比と各試料の生活地域との関係を検証し、その傾向を明らかにする予定である。 本年度は同じ歯種を採取した事例について分析を行った。同じ歯種を選定したのは、歯の形成や萌出の時期が同じである為である。本研究を身元推定に応用していく場合、決まった歯種で検討ができるとは限らない。歯種によって歯の形成時期は異なるため、歯種による酸素安定同位体比の違いについての検討も必要であると考えられる。そこで、同一事例から採取された歯の完成時期の異なる複数の歯についての検討を加える予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響により、本年度予定していた学会参加が全てなくなったため未使用額が生じた。また当初購入予定であった精密分析天秤が当教室の他研究費で購入可能となり、さらに本研究に必要な別の分析天秤が故障した為、その購入を行い、差額が未使用額となった。次年度は予定の分析に加えて、同一事例における歯種別の検討を加える予定であり、その解析を行う経費に未使用額を充てる。
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