本研究は、死後変化の影響を受けない歯のエナメル質に蓄積される酸素安定同位体比を調べることにより、身元不明遺体の人種や生活地域を推定する新たな身元推定法の開発を目的としている。これまでに大陸居住者と新潟県居住者から採取された歯のエナメル質に蓄積される酸素安定同位体比には、飲用水を採取する水系の違いに起因すると考えられる有意な差があることを明らかにした。さらに国内の居住地域が異なる事例について、同様に歯エナメル質の酸素安定同位体比の分析を進めているが、分析装置の入れ替えや調整等により実施が遅れている。前年度から骨にも着目し、主成分のリン酸カルシウムに含有される酸素安定同位体比の分析を実施したが、大陸居住者と新潟県居住者の間で骨の酸素安定同位体比に明確な差は認められなかった。骨においては歯エナメル質と比べて、ターンオーバー等の影響を受け経時的に変化が起こる可能性が考えられた。骨については酸素安定同位体比のみでの検討は難しいと考え、食性の違いを反映する炭素および窒素安定同位体比の検討を加えることとした。本年度は、炭素・窒素安定同位体比分析の手法の検討を行い、本学における試料調製の実施体制を整えた。さらに、歯エナメル質の酸素安定同位体比で有意差が見られた大陸居住者1例と新潟県居住者3例について骨コラーゲンを抽出し、炭素・窒素安定同位体比の測定を実施した。その結果、両者の炭素・窒素安定同位体比は異なる値を示す可能性が見出された。本年度で研究期間終了となるが、今後は歯エナメル質の酸素安定同位体比の検討に加えて、同事例の骨について酸素・炭素・窒素安定同位体比の検討を追加し検証を継続する予定である。。
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