研究課題/領域番号 |
20K10268
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
林 幾江 広島大学, 医系科学研究科(歯), 研究員 (00346503)
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研究分担者 |
小原 勝 大垣女子短期大学, その他部局等, 教授 (80253095)
飛梅 圭 広島大学, 医系科学研究科(歯), 准教授 (40350037)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | う蝕 / アセチル化酵素 |
研究実績の概要 |
口腔レンサ球菌の細胞壁構造の修飾割合を調べた。インフォマティクス解析で、いずれの細菌においてもアセチル化修飾酵素が確認できたが、そのアセチル化の割合はdissacharideに対してS.sobrinusが21%と最も高く、同じ側鎖アミノ酸組成(Thr-Ala)を有するS.downei, S.cricetusもS.sobrinus同様の高いペプチドグリカンのアセチル修飾率で、約10%がグルカン鎖のMurNAcアセチル修飾、加えて約10%が特異的に存在している側鎖アミノ酸(Thr)のアセチル修飾酵素が寄与したアセチル化率であった。これら菌種の2種類のアセチル化酵素のアルファフォールドによる3次元立体構造解析を行った。S.sobrinusの形質転換が困難であったため代替え菌を使用した形質転換菌の作成に着手した。S.sobrinusとS. downeiの全ゲノム配列取得のため、ゲノムDNAを抽出したが、推奨のプロトコル操作では十分量のDNAが得られず、溶菌が不十分であったと推察されたため、DNA抽出に使用する菌量を増やすとともに溶菌酵素をLysozymeからMetaPolyzymeに変更する抽出法とする改良法を考案した。S. sobrinusが液体培養時に菌体が凝集することによる増殖効率の低下が引き起こされることを抑えるため培地に0.05% Tween80を加え凝集を抑える培養で37℃で48時間(0.5mg/mLのMetaPolyzyme添加)反応させ溶菌した後に、DNAを抽出したところ、十分量のDNAを得ることができた。得られたゲノムDNAはNanoporeシーケンス及びイルミナシーケンスに供試し、ロングリード配列とショートリード配列を取得し、その後、Unicyclerによってショートリード配列とロングリード配列のハイブリッドアセンブリを行い、完全長ゲノムの取得に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍による行動制限、研究代表者、共同研究者の移籍、身分変更などにより研究体制の見直しが必要となり、また研究計画も見直しを図った。現有の機器が故障したため主要な施設での継続的な解析が不可能となり、新たに研究体制を構築した共同研究機関が機器(質量分析装置)を新規に購入し調達できた事を契機としてペプチドグリカンの構造解析が可能となったが、解析実験ごとに宿泊を伴った国内移動が必要となり研究遂行上の効率が低下せざるを得ない状況となった。また、S.sobrinusを用いた遺伝子改変実験では、遺伝子操作が菌本来が有する制限系の制約を受けるためか困難であったため代替え菌を用いる新たな研究計画に着手することとしたため研究課題の進捗状況に遅れを生じた。
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今後の研究の推進方策 |
S.sobrinusを用いた遺伝子操作が困難と思われため、代替え菌を使用して側鎖にThr-Alaを有するペプチドグリカンをcross-linkに持つ菌を人工的に作成する案でO-acetyltransferaseの機能、ビルレンス制御機構を検討することとし、遺伝子操作した菌においてThrのアセチル化酵素の特定、酵素発現した菌、および欠損株でのペプチドグリカン構造の解析、溶菌酵素に対する感受性、抗生物質に対する感受性、TLR2活性等検討し、ビルレンス制御因子としてアセチル化修飾の意義を評価する。そのため、S.sobrinus, S.downeiの全ゲノム配列を取得しFemに対応する遺伝子を抽出する。S.sobrinusのfemXに相当するmutansのfemB配列FemX+, FemA-(Spcr)株を作成し、femA上流領域(500bp)+femX(S.sobrinus)遺伝子+スペクチノマイシン耐性遺伝子(Spcr)+femA下流遺伝子(500bp)をfuseしたカセットを用いてS.mutans野生株の形質転換を行い、femAをfemXに置換する。ftf上流領域(500bp)+Oat遺伝子+エリスロマイシン耐性遺伝子+ftf下流遺伝子(500bp)をfuseしたカセットを用いてFemX+, FemA-(Spcr)株の形質転換を行い、Oatをftfのプロモーターで発現させることとする。 S.sobrinus、S.downei, S.cricetusに存在する糖鎖(MurNAc)と側鎖アミノ酸(Thr)のアセチル化修飾酵素のアルファフォールドによる立体構造解析からペプチドグリカンとの作用点のシュミレーションを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験計画の見直し、主要実験場所の変更などにより研究進捗の遅れを生じたが、研究体制、研究計画も定まったことから焦点を絞り効率的に取り組むこととする。まずは、次世代シーケンサーを用いたゲノム配列に着手し代替え菌を用いた形質転換した菌の作成を第一優先とする。そのための経費が大半となる。バイオインフォマティクス解析の情報収集にも努める。
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