本研究は、「異なる口腔環境より採取したカンジダ菌の性状解析に基づく新規誤嚥性肺炎予防法の開発」を大目的として研究を実施した。以下に研究期間内に挙げた研究成果を示す。 誤嚥性肺炎は若年者層よりも高齢者層において多発する。若年者層と高齢者層の口腔内環境を比較したとき、大きな差異の一つとして、義歯の存在が挙げられる。そこで、義歯に付着し、且つ誤嚥性肺炎の起因菌であるカンジダ菌に着目し、義歯床粘膜面よりカンジダ菌の臨床分離株の採取を行った。臨床分離株採取後、カンジダ菌臨床分離株の性状解析として、増殖能、義歯床用材料PMMAへの付着能、抗真菌性成分(アンホテリシンB、ヒスタチン5)への耐性能について検証を行った。 検証の結果、義歯床粘膜面より採取した臨床分離株は、口腔外の皮膚由来の指標株JCM1537株より有意な薬剤耐性能を示した。また、義歯床粘膜面由来の臨床分離株の義歯床用材料PMMAへの付着能には様々なバリエーションが認められ、また多数の臨床分離株において指標株JCM1537株より有意な付着能の亢進を認めた。その一方で、増殖能においては株間において有意な差は認められなかった。 上記検証結果より、高齢者の口腔内に存在する義歯は、誤嚥性肺炎の起因菌であるカンジダ菌の付着・増殖を可能にする足場としての役割を果たしている可能性が示唆された。さらに、その足場としての義歯に付着したカンジダ菌は抗真菌性成分への高い耐性を示すことから、義歯を装着した高齢者層における誤嚥性肺炎の発症、重症化抑制には、徹底した義歯清掃管理は必須であることが明らかになった。今後、誤嚥性肺炎予防法の確立には、口腔環境を構成する口腔環境構成因子への更なる多角的な検証が必要であると考えられる。
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