研究課題/領域番号 |
20K10286
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
泉福 英信 国立感染症研究所, 細菌第一部, 室長 (20250186)
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研究分担者 |
加藤 紀弘 宇都宮大学, 工学部, 教授 (00261818)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | バイオフィルム / Streptococcus mutans / 7Sグロブリン3 / リン酸カルシウム / ポリピロール / renG組み換えS. mutans / マウス / ルシフェラーゼ |
研究実績の概要 |
口腔バイオフィルムは、多種類の微生物が歯表面上に付着して増殖し、多糖体(グルカン)などの粘着性の物質がその形成を助け、集合体を形成し、剥がれにくくなった微生物集落である。齲蝕、歯周病、誤嚥性肺炎などの発症に関与している。近年、菌体から放出される細胞外DNAおよび細胞外RNAと膜小胞(ベジクル)が複合体を形成し、この複合体が口腔微生物のBF形成を誘導することが明らかとなった。そこで本研究では、物理的な方法、化学的な方法を用いて、ベジクル複合体によるバイオフィルム形成を阻害する抑制物質を明らかにし、関連疾患の予防方法を総合的に開発する研究を行った。7Sグロブリン3, ポリピロール、フルクタナーゼ、銀-ゼオライト、ゼオライト、銀-リン酸カルシウム{アパサイダーAW(粒子が大)、アパサイダーAK(粒子が小)}、リン酸カルシウム(アパメド)、銀―シリカゲル、ジルコニアディスク、銀―ジルコニアディスクを用いてう蝕原因菌であるStreptococcus mutansのベジクル依存的なバイオフィルム抑制実験を行った。その結果、7Sグロブリン3, ポリピロール、フルクタナーゼよりもゼオライト、アパサイダーAW、アパメドがべジクル依存的なバイオフィルムを抑制することが明らかとなった。マウス口腔に形成されるバイオフィルムに対して、これらの物質が抑制効果を示すか検討するためにS. mutansの口腔内細菌の位置情報を可視化したマウスモデルの作製を行った。renG遺伝子(ルシフェラーゼ遺伝子)が組み込まれたrenG組み換えS. mutansを作製し、マウス口腔内へ注入し、その後ルシフェリンを注入した。ルシフェラーゼによる発光をIVISを用いて観察した。その結果、S. mutansのマウスにおける位置情報を可視化することに成功した。今後、上述の抑制物質を用いてマウスにて抑制効果を検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膜小胞(ベジクル)複合体に依存的なバイオフィルム形成が、様々な候補物質を試した中で、リン酸カルシウムを添加することにより抑制されることが明らかとなった。これは、リン酸カルシウムのべジクル複合体に対する物理的な抑制効果を示している。これは本研究において大きな進展となった。また、マウス口腔内における抑制剤の効果の検討をするために、renG組み換えS. mutansをマウス口腔内接種実験を行った。その結果、S. mutansのマウス口腔における可視化も成功した。これらの研究の結果は、本研究が順調に進展していることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
物理的な方法として、リン酸カルシウムのバイオフィルム形成抑制効果が明らかとなった。今後は、化学的な方法 として、べジクル複合体を化学的に阻害する低分子化合物を探索し、バイオフィルム形成を阻害する化合物を明らかにする検討を行う。国内最大規模の化合物ライブラリーを保有する東京大学創薬機構と連携し、信頼度の高いスクリーニング系を構築する。べジクル複合体を用いたS. mutans, S. gordonii, F. nucleatum, A. naeslundiiのバイオフィルム形成をターゲットとして50000 化合物のスクリーニングを行い、ベジクル複合体を分解してバイオフィルム形成を選択的に阻害する化合物を取得する。一次スクリーニングは、プレートを用いてバイオフィルム形成実験を行い、20~50を目安として抑制化合物を取得する。さらに大気圧走査電子顕微鏡(ASEM)による解析技術を用いて、べジクル複合体が分解されるか観察する。ASEMは、乾燥させずに溶液中で観察することができ、これはバイオフィルムを観察する上で極めて重要である。分厚いバイオフィルムの底面に存在する菌体を明確に観察でき、プラス荷電ナノゴールドを用いることでDNAとのベジクル複合体の存在を観察できる。抑制物質の効果の評価は、バイオフィルム形成量の確認と緩く形成されたバイオフィルム内にベジクル複合体の存在を確認することで判定できる。この方法を用いて、抑制物質の抑制メカニズムの検討を行う。 さらに、確立したrenG組み換えS. mutansを用いたマウス口腔内接種実験において、それらの抑制物質の効果を可視化した観察法でバイオフィルム抑制実験を行う。今後、ヒトへの応用を検討するためにも、マウスにおける効果の判定は重要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の影響で、参加を予定していた複数の学会に参加できなくなり、旅費を使用することが出来なかった。また、同様の理由で実験補助員を呼んで実験させることもできなかった。それに伴い、予定していた研究を一部延期したために次年度使用額が生じることとなった。本年度は、実験を集中して行い研究成果をあげることで、研究費を使用していくことをを計画している。
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