研究課題
口腔バイオフィルム(BF)は、口腔に住む多くの微生物が歯表面において付着、凝集体を作り、厳しい環境でも生き永らえるために形成された集合体である。我々は、菌体から放出される膜小胞(ベジクル)が細胞外DNAならびに細胞外RNAと複合体を形成し、口腔BF形成の鍵として働くことを明らかにした。そこで本研究では、このベジクル複合体をターゲットにして、ベジクル依存的BF形成を阻害する物質の検討およびそのシステムの構築を行った。国内最大規模の化合物ライブラリーを保有する東京大学創薬機構と連携し、信頼度の高いスクリーニング系を構築し、べジクル複合体を用いたS. mutansのBF形成をターゲットとして410の化合物のプレートを用いたスクリーニングを行い、ベジクル複合体に依存的なBF形成を選択的に阻害する156の化合物を取得することができた。38%の高い比率で、BF形成を50%以上抑制する事を明らかにした。この結果は、ベジクル複合体が様々な化合物に感受性が高いことを示している。その化合物をcompound Xとし、他のグループにより明らかにされたStphylococcus aureusのバイオフィルム形成を阻害する因子であるcompound Zと比較検討する必要がある。compaound Zは細胞壁をターゲットとしていることから、compound Xも似た効果があることが推察された。ベジクル複合体を卵殻から生成されたリン酸カルシウムと混ぜてマウスの鼻腔に免疫すると、唾液中と血清中にベジクル複合体に特異的に反応するIgA抗体とIgG抗体が誘導された。これらの抗体は、ベジクル複合体に依存的なBF形成を阻害する事が明らかとなった。よって、ベジクル依存的バイオフィルム形成に直接作用する様々な化合物やベジクル複合体に反応する免疫力の効果で限りなくベジクル依存的BF形成を阻害する事が示唆された。
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Archives of Microbiology
巻: 204 ページ: 723
10.1007/s00203-022-03299-6