研究課題
【目的】複数の口腔機能の低下が重なった疾患である口腔機能低下症の罹患は全身状態の悪化に影響する要因の一つであると考えられる。しかし、口腔機能低下症と全身状態との関連を検討した研究はほとんどない。本横断研究の目的は、地域在住高齢者において口腔機能低下症とサルコペニアとの関連を検討することである。【方法】地域在住高齢者878名(男性268名、女性610名、平均年齢76.5±8.3歳)を対象者とした。口腔機能低下症の診断項目として、Tongue Coating Index、口腔粘膜湿潤度、咬合力、オーラルディアドコキネシス/pa/、/ta/、/ka/、舌圧、咀嚼機能、嚥下機能を評価し、口腔機能低下症を診断した。サルコペニアの診断項目として、握力、歩行速度、Skeletal Muscle mass Indexを測定し、サルコペニアを診断した。口腔機能低下症とサルコペニアの関連を、サルコペニアを従属変数とした多変量ロジスティック回帰分析で検討した。【結果】本対象者集団における口腔機能低下症の有病率は、全体で50.5%、男性で40.3%、女性で54.9%だった。サルコペニアの有病率は、全体で18.6%、男性で9.7%、女性で22.5%だった。多変量ロジスティック回帰分析の結果、口腔機能低下症の有無とサルコペニアとの間に有意な関連を認めた。口腔機能低下症の診断を受けたグループでは、受けてないグループと比較してサルコペニアの頻度が有意に高かった(オッズ比:1.55、 95%信頼区間:1.00-2.41)。【結論】口腔機能低下症とサルコペニアは有意に関連していた。本研究により口腔機能低下症は、サルコペニアのリスクのひとつである可能性が示された。歯科医療従事者が高齢者の口腔機能を多面的評価し、低下している機能へ対応することは高齢者の健康状態の維持につながると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
2021年度は、2020年に続いて感染予防対策を十分に講じた上で来場型健診を実施した。来場者が会場に滞在する時間を極力少なくするため調査項目の見直しを行い、握力、身体機能、骨格筋量から全身状態を評価することのできるサルコペニアを栄養状態のアウトカムとして使用することとした。2021年度の調査によりサルコペニアと口腔機能との間の関連について新知見を得ることができた。2021年度に得られたその他の知見についても、現在論文化を進めている。また、2020年度より得られた縦断的な知見についても2022年度中の論文発表を予定している。以上から、2021年度の進捗状況は「おおむね順調に進展している」とした。
感染症対策の観点から、2021年度は対象者数を制限した上で調査を実施した。対象者数は当初の想定より減少したものの、これにより過去の調査結果と合わせて縦断的な検討が可能となった。2022年度は、再び大規模調査の実施を予定している。一方で、調査の実施が困難であった場合も想定して、現時点で得られた縦断的な知見の発表を進めていく。
2021年度は対象者数を制限した上で調査を実施したため、当初予定していた予算よりも少ない金額で研究を遂行することができた。次年度繰越金は、2022年度の調査で使用する消耗品等の購入および、新たに得られた知見の報告(学会発表や学術雑誌投稿等)での使用を予定している。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件)
Archives of Gerontology and Geriatrics
巻: 100 ページ: 104659~104659
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