研究課題/領域番号 |
20K10305
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研究機関 | 鶴見大学 |
研究代表者 |
吹田 憲治 鶴見大学, 歯学部, 助教 (90569542)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 口腔疾患 / Epac / βアドレナリン受容体シグナル / 心臓リモデリング / 心房細動 |
研究実績の概要 |
本研究では、咬合不調和および歯周病の動物モデルを用いて口腔疾患が心房細動(AF)のリスクファクターとなる可能性を明らかし、その発症メカニズムにおけるEpac1(Exchange protein directly activated by cAMP 1)の役割を証明する。
我々の先行研究においてアデニル酸シクラーゼ(AC)心臓型サブタイプの選択的阻害剤として見出したビダラビン(抗ヘルペス薬)は、定常時の生理的心機能を低下させることなく交感神経系の慢性的亢進による心機能障害を抑制する。本年度は、咬合不調和(bite-opening: BO)による心機能障害に対するビダラビンの薬理効果を検討した。その結果、ビダラビンは定常時の心機能を低下させることなくBOによって誘発される心臓への有害事象(酸化ストレス亢進、心臓リモデリング、心機能低下)を有意に抑制した。一方、Epac1遺伝子欠損(Epac1KO)マウスを用い、咬合不調和によって誘発される心臓の病的変化を野生型マウスと比較検討する実験を開始した。Epac1KOマウスは野生型マウスと比較してBOによる死亡率に変化の傾向が認められた。 歯周病菌(Porphylomonas gingivalis)由来のリポポリサッカライド (PG-LPS) を慢性的に少量持続投与(0.8mg/kg/day)した歯周病マウスモデルを作製してPG-LPSが心臓に及ぼす影響について検討した。その結果、PG-LPSを1週間投与したマウスの心機能が有意に低下していること、PG-LPS投与マウスの心臓ではコントロール群に比較して心臓リモデリングが進行していること、心筋組織内のPKAやCaMKIIシグナルが活性化していることを明らかにした。以上の結果は、PG-LPSの慢性投与を行ったマウスでは交感神経系が活性化していることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、我々は咬合不調和による交感神経系の慢性的活性化が心房および心室のリモデリングを誘発し、AFへの脆弱性増大や心機能低下を引き起こすことを明らかにした。また、Epac1の活性化因子であるcAMPを産生する心臓型ACの阻害剤ビダラビンが咬合不調和による心機能低下の予防に有効である可能性を示した。さらに、歯周病菌由来のPG-LPSが心臓における交感神経作用を活性化することも見出した。このことは、PG-LPSがAF発症にも影響を与える可能性を示す。以上のように、口腔疾患がAFのリスクファクターとなり得ることを強く示唆する結果が得られているため、本研究はおおむね順調に進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
口腔疾患の動物モデルを用い、AF発症に対するEpac1KOマウスの応答について野生型マウスと比較しながら解析を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はEpac1KOマウスと、随時必要数を購入した野生型マウスを用いて口腔疾患モデルの解析を進めた。かかる研究においては既に我々の研究室で確立された実験手法・実験装置を用いた。また、Epac1KOマウスは必要十分な飼育数に管理し、必要以上の飼育管理費が発生しないように努めた。一方、コロナの影響により学会はWeb開催となったため、開催地への旅費(交通費、宿泊費)の支出がなかった。これらの理由により、本年度に当初予定していた予算は消費したが、前年度からの繰越金が加算されていたため、次年度に繰り越すこととなった。 最終年度となる次年度はEpac1KOマウスを用いて口腔疾患モデルの詳細な検討を行う予定であり、当該マウスの飼育管理費や対応する野生型マウスの購入費、ならびにAF実験等の消耗品購入費がさらに増加する。本年度の繰越金を次年度の直接経費と合わせ、上記項目に充当していく。
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