本研究の目的は、咬合不調和ならびに歯周病の動物モデルを用いて口腔疾患が心房細動の危険因子であることを示すとともに、その発症におけるEpac1(exchange protein directly activated by cAMP)分子の役割を明らかにすることである。 本年度はBite-opening(BO)処理により誘発した咬合不調和の影響を野生型マウスとEpac1遺伝子欠損(Epac1KO)マウスで比較検討した。BO処理を行ったマウスでは非処理のマウスに比して交感神経系が慢性的に亢進していることや、Epac1KOマウスは心不全や不整脈を誘発する慢性的ストレスに抵抗性を示すという我々のこれまでの報告を合わせると、咬合不調和による心臓への有害事象はEpac1KOマウスで抑制されることが推測された。ところが予想に反し、野生型マウスに比べて多くのEpac1KOマウスがBO処理後の急性期に死亡するという結果を得た。また、心臓超音波検査ではBO処理2日後において野生型マウスではBO処理前と比較して心機能(左室駆出率)の低下が認められなかったが、同時点のEpac1KOマウスの心機能は有意な低値を示していた。これらの結果から、①咬合不調和は交感神経系の活性化に加え、それとは異なる経路を介して心臓に影響をおよぼすことや、②ストレス負荷後の急性期においてはEpac1による心機能の増強がストレス応答に重要である可能性が示唆された。以上、咬合不調和に対する心臓のストレス応答においてEpac1が多様かつ重要な役割を担っていることが推定された。
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