研究課題/領域番号 |
20K10306
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
加藤 一夫 愛知学院大学, 歯学部, 准教授 (60183266)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | S-PRGフィラー配合歯磨剤 / 無機イオン濃度 / 唾液 / フッ化物 / プレバイオティクス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、プレバイオティクスとしてのS-PRGフィラー配合歯磨剤(試験歯磨剤)の有用性を検討することである。プレバイオティクスとしての効果は、フィラーから溶出するミネラルに依存することから、今年度は、口腔内でのブラッシング操作を通じて、試験歯磨剤から溶出する無機イオン量について検討した。 研究協力者19名を対象に、0.5gまたは1.0gの試験歯磨剤を用いて、1分、3分または5分間ブラッシングを実施し、貯留した唾液と精製水で洗口(10mL×2回)後の吐出液を回収した。計量後、直ちにフィラーや残渣を遠沈し、各上清から2検体を採取した。検体は凍結乾燥保存し、フッ化物濃度をイオン電極法にて、アルミニウム、ホウ酸、ケイ酸およびストロンチウム濃度をICP発光分光分析法にて定量した。 試験歯磨剤濾過液中のミネラル濃度を基準に、使用した歯磨剤の重量、吐出液の液量および検体のミネラル濃度から、ブラッシングによる試験歯磨剤からのミネラル溶出率を算出した。その結果、フッ化物とケイ酸の溶出率は、ブラッシング条件で変化し、フッ化物では、歯磨剤0.5gの場合54~56%、1.0gでは32~35%となり、歯磨剤が多いと有意に低下した。また、ケイ酸の溶出率は21~38%で、ブラッシング時間が長いほど溶出率の上昇する傾向を示した。一方、アルミニウム、ホウ酸およびストロンチウムの溶出率は、ブラッシング条件に関わらず、それぞれ2.1~2.6%、1.7~1.9%、1.8~2.2%となり、ミネラル間でフィラーからの溶出率が異なることが明らかとなった。 また、ブラッシング後の吐出液の回収を起点とし、10、20、30、60,90分後に、無刺激下で3分間、口腔底に貯留した混合唾液を回収し、各唾液試料から、吐出液と同様の方法で検体を採取した。現在、口腔内での各ミネラル停滞性について解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画調書の段階では、研究初年度は、研究協力者約15名を対象に、in situでの口腔バイオフィルム試料を採取するための装置を作製し、その装置を使って、研究協力者から、口腔バイオフィルム内の指標細菌の密度や生息域の定量的層別マッピングを解析するためのバイオフィルム試料を回収し、S-PRGフィラー配合歯磨剤のプレバイオティクスとしての効果を判定する予定であった。また、その際、口腔バイオフィルムには、S-PRGフィラーからミネラルがほほ100%溶出した状態である歯磨剤濾過液を作用させる計画であった。 しかし、実際には、ブラッシングした際の歯磨剤中のS-PRGフィラーからのミネラル溶出速度に関する情報が皆無であったことから、研究計画の手順を入れ替え、最初にブラッシング時のS-PRGフィラー配合歯磨剤からの無機イオン溶出量について検討を行い、その結果を口腔バイオフィルム処理の条件設定にも反映させることととした。 一方、本研究は、研究協力者を対象に介入を行い、回収した唾液やバイオフィルムなどの生体試料を分析する臨床研究の形態を取っている。過去の研究経験から、今回も同様に、研究協力者の募集案内を通じて、本研究の主旨に同意の得られた主に学生を対象に、研究協力を依頼する予定にしていた。ところが、研究課題が採択された昨年の春は、新型コロナ感染症対策の時期と重なったため、休校やリモート下での教育活動により、研究協力者を確保することが困難となり、従来より研究の開始が遅れることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
前述の理由から、研究の開始は遅れたが、研究計画の手順を変更して初年度に計画したS-PRGフィラー配合歯磨剤からの無機イオン溶出量の検討に関しては、解析に必要な試料回収までは終了していることから、解析の完了を急ぐ。 以前の研究課題(15K11437)におけるS-PRGフィラー配合験歯磨剤の濾過液を用いた研究から、この歯磨剤濾過液には口腔バイオフィルムのフッ化物停滞性を高める作用を有することを初めて明らかにした。S-PRGフィラーの歯磨剤への応用が、従来のフッ化物洗口や歯磨剤を応用した場合より、口腔環境中のフッ化物濃度を高いレベルに維持する可能性があることから、その検討も行い、プレバイオティクスという新たな要素を付加した歯磨剤の応用を判定するための口腔バイオフィルム処理の条件設定に反映させる。
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