研究課題/領域番号 |
20K10306
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
加藤 一夫 愛知学院大学, 歯学部, 准教授 (60183266)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | S-PRGフィラー抽出液 / フッ化ナトリウム配合歯磨剤濾過液 / フッ化ナトリウム歯面塗布液 / フッ化物 / 唾液 / 口腔内停滞性 |
研究実績の概要 |
令和2年度に実施し、データが未解析であったS-PRGフィラー配合歯磨剤から溶出した無機イオンの口腔内からの減少速度について検討した。ブラッシング後の吐出液中の濃度を基準に90分間の各無機イオンの減少速度をみたところ、フッ化物、ストロンチウムおよびアルミニウムに比べ、ケイ酸は有意に遅く、ホウ酸は有意に早く減少したことから、口腔内での停滞性にミネラル間で差のあることが明らかになった。 本年度は、その結果を踏まえ、S-PRGフィラー由来フッ化物イオンの口腔環境中での停滞性を従来のフッ化物応用の場合と比較するとともに、S-PRGフィラーに由来する他の無機イオンとの関連性を検討するための試料採取を行った。 研究協力者22名を対象に、S-PRGフィラー抽出液(A液)、フッ化ナトリウム配合歯磨剤濾過液(B液)および2%フッ化ナトリウム歯面塗布液(C液)から調整した3種類のフッ化物溶液(100ppmF)で洗口を行い、各溶液の吐出時を起点に、0、10、20、30、60および90分後の計6回、無刺激下で3分間口腔底に貯留した混合唾液を採取した。唾液サンプルは直ちに秤量後、遠心分離した上清部分から、フッ化物およびそれ以外のミネラル定量用として唾液試料を2組回収し、液体窒素で予備凍結後、凍結乾燥試料として分析まで保存した。 唾液中のフッ化物濃度の経時的推移を比較するため、凍結乾燥試料に、回収した唾液量に相当する過塩素酸添加酢酸緩衝液(pH5)を加え、フッ化物を抽出した後、イオン電極法によりフッ化物の定量を行った。 その結果、A、BおよびC液の洗口直後(0分)における唾液中のフッ化物濃度は、14.1、25.4および27.5ppm、また唾液に含まれるフッ化物量は、14.0、35.7および29.7μgで、S-PRGフィラー抽出液を用いた場合に有意な低下が見られ、同様の傾向が10分後も認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、研究協力者を対象に介入を行い、回収した唾液やバイオフィルムなどの生体試料を分析する臨床研究の形態を取っている。過去の研究経験から、今回も同様に、研究協力者の募集案内を通じて、本研究の主旨に同意の得られた主に学生を対象に、研究協力を依頼する予定にしていた。ところが、研究課題が採択された令和2年度の春は、新型コロナ感染症対策の時期と重なったため、休校やリモート下での教育活動により、研究協力者を確保することが困難となった。 また、当初、初年度に実施を予定していた「S-PRGフィラー配合歯磨剤からのミネラル溶出速度と口腔内停滞性の研究」について、倫理委員会による審査の過程で、特定臨床研究に当たる可能性について疑義の指摘があり、特定臨床研究には該当しないという判断を示す根拠を確認するのに審査期間を要することになった。 このような2つの事情から、想定より研究の開始が遅れることとなり、現在もまだその影響が残っている。
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今後の研究の推進方策 |
酸産生を減少させる微生物群の成長を促進し、多様でバランスのとれた生態系(symbiosis)へ口腔バイオフィルムを回復させる作用を持つプレバイオティクスの開発は、バイオフィルムの除去が困難な幼児、障害者および高齢者などでの齲蝕リスクを低下させることが期待でき、齲蝕の予防管理を行う上で重要なツールになる可能性がある。 本研究の主目的であるS-PRGフィラーに由来する無機イオンのプレバイオティクスとしての利用可能性の検討方法は、特定臨床研究には該当しないことが、倫理委員会で確認でき、当初予定していた研究計画に従って研究を進める環境が整いつつある。 口腔細菌によるアルカリの産生は、バイオフィルムのpHに直接影響し、齲蝕原性菌の出現を抑制する。肉、乳製品、卵、穀物などに多く含まれる塩基性アミノ酸であるアルギニンは、細菌のarginine deiminase system(ADS)により、オルニチン、アンモニアおよび二酸化炭素に代謝される。これは、アルカリ生成の主要な経路の一つであり、口腔レンサ球菌であるS. sanguinisは、ADSを発現することが知られている。そこでS. sanguinisをsymbiosis状態の指標細菌として選定し、代表的な齲蝕関連菌であるS. mutansをdysbiosis状態の指標とし、S-PRGフィラー由来の無機イオンを含む処理液の作用した実験群と対照群における口腔バイオフィルム内の密度や生息域を比較検討し、S-PRGフィラーに由来する無機イオンのプレバイオティクスとしての有用性を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の主目的は、S-PRGフィラーに由来する無機イオンのプレバイオティクスとしての利用可能性を検討することであり、研究協力者を対象に介入を行い、回収した唾液やバイオフィルムなどの生体試料を分析する臨床研究の形態で実施する。 しかし、①研究初年度の令和2年は新型コロナ感染症対策の時期と重なり、休校やリモート下での教育活動により、研究協力者を確保することが困難となったこと、②また、倫理委員会による審査の過程で、S-PRGフィラーを利用した介入が特定臨床研究に当たる可能性について疑義が生じ、特定臨床研究には該当しないという判断を示す根拠を確認するのに審査期間を要することとなり、想定より研究の実施が遅れることとなった。 一方、S-PRGフィラーに由来する無機イオンを作用させたin situ口腔バイオフィルムを試料として、バイオフィルム内におけるdysbiosisおよびsymbiosis状態の指標となる細菌の密度や比率、生息域の変化などを分析することに関しては、すでに倫理委員会の承認を得ており、実験計画に従ってプレバイオティクスとしての利用可能性を検討する予定である。
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