研究課題/領域番号 |
20K10311
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
福田 妙子 筑波大学, 医学医療系, 教授 (40228911)
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研究分担者 |
堀口 裕正 独立行政法人国立病院機構本部(総合研究センター), 診療情報分析部, 副部長 (50401104)
今井 志乃ぶ 東京薬科大学, 薬学部, 准教授 (50608750)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高齢患者 / 手術 / 日常生活活動 |
研究実績の概要 |
高齢者が手術を受けた場合、特に合併症を発症しなくても退院後に日常生活活動のレベル低下が認められることが多い。我々の過去の研究では、その確率は70歳代で急速に上昇し90歳以上では5人に1人の割合であった。この現実をふまえ、術後日常生活活動低下に深く関わる因子を明確にし、患者・家族および社会福祉の両面に貢献できる基礎データを得ることが、本研究の目的である。 そこで我々は、国立病院機構の診療情報分析部に集積された65歳以上の大腿骨近位部骨折と大腸癌の症例データを基に、入院前に比較して退院時の日常生活活動が低下したあるいは低いままの患者に共通する因子をロジステック回帰分析を用いて探索した。探索に用いる予測因子には、患者基本情報の他に、外科手術が予定された場合必ず集積される血液データやバイタルサインデータを使用することとし、複雑で特別な計測を必要とする認知機能検査や身体機能測定などの因子は含めないこととした。また、導き出された予後予測式の精度を感度と特異度をもとに評価した。さらに大腿骨近位部骨折の症例では精度確認用のサンプルを用いて、予測式の評価を行うことにした。 これまで発表されている予後予測の研究の多くは、死亡率や合併症の発生率が多く、術後の機能低下に注目した報告は比較的少ない。また、術後の機能予測を調べた研究では、特別な問診やテストあるいは専門家の評価が含まれいることが多く、過去あるいは世界規模でのデータ比較は難しかった。本研究の結果を活用すれば、高齢者の術後日常生活活動の低下を予想し、またそれを予防する方法を効率的に探求することが可能となる。また新しく開発された身体機能維持のための方策(例えばリハビリテーションや低侵襲手術)の有効性を検討するためにも有効であると推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①2016年1月1日から2019年12月31日の間に、国立病院機構の病院(NCDA: National hospital organization Clinical Data Archives に参加している病院)の電子カルテ及びDPCやレセプトデータから、65歳以上の大腿骨近位部骨折及び大腸癌の手術を受けた患者の匿名データを抽出した。 ②患者を術後日常生活活動が低下したあるいは低いままの症例と自立が保たれたあるいは改善した症例の2群に分け、多項ロジステック解析を行った。また、得られた術後の機能予測式の精度を、感度と特異度を利用したc統計量で評価するとともに、その精度を統計学的手法を用いて確認した。 ③当初の研究計画を一部修正して、大腿骨近位部骨折と大腸癌の手術患者は、それぞれ別に分析した。大腿骨近位部骨折手術に関しては、年齢、性別、BMI(体格指数)、骨折パターン、施設入所、手術施行時期、認知症、脳血管疾患、ヘモグロビン、総タンパク、ナトリウム、血液尿素窒素、クレアチニン、入院時意識レベル、拡張期血圧、心拍数、酸素吸入を独立変数として得た計算式が、術後日常生活活動が低下あるいは低いままの症例を予想することができるという結果を得た。 ④大腸癌手術に関しては、年齢、術前日常生活活動の依存、施設入所、救急車使用、入院時意識障害、糖尿病、脳血管疾患、低クレアチニン、低タンパク血症を変数として、術後の日常生活活動低下の予測式を立てることができた。 ⑤大腿骨近位部骨折の結果は、英文誌 Current Orthopaedic Practice に掲載されることが決定した。大腸癌症例の結果については、英文誌 International Journal of Surgery Openに、投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
大腸癌症例の結果については、英文誌 International Journal of Surgery Openに、「A prediction model for low functional status after colorectal cancer surgery: a retrospective cohort study using administrative data」という題名で投稿中である。アクセプトされるべく、レビュワーの修正要求に応えていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
学術雑誌のレビューが遅く、成果発表における論文掲載費用を確保しておく必要が生じた。今後の使用計画としては、論文として成果を発表し、その掲載費用及びそれに伴う事務用品の資金として活用していく予定である。
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