研究実績の概要 |
クリニカルパスは(以下パス)医療安全を含めた医療の質向上と入院日数減少を含めたコスト削減を可能とする有効なマネジメントツールであり、多くの急性期病院が導入しているが、その利用率は病院間に差があり、特に大学病院での利用率は低い。本研究では、入院パス、外来パス、地域連携パスの3種において医療の質、医療安全、経営改善効果に関するエビデンスの明確化とその運用要件を定義することを目的として計画した。今年度は入院患者に対する効果を評価した。平成28~令和元年度の4年間を評価した結果、平均入院日数はパス無し例が44,992例で17.5±24.0日、パス例が32,647例で9.7±14.5日と7.8日短く、年度別の比較でもほぼ変わらなかった。2週間以内の再入院率は平成28~30年度を評価した結果、パス例は253例1.07%に対しパス無し例が926例2.75%とパス無し例が2.57倍再入院率が高かった。なお、病院経営に関する影響を、原価計算システムを用いて医科退院を対象にDPC単位の収支を比較した結果、パス有例の黒字症例率は人件費出来高配賦にて60.4%(16,093/26,661)、人件費入院日数配賦にて56.1%(14,954/26,661)1例あたり平均収支は人件費出来高配賦にて-13,924円、人件費入院日数配賦にて76,092円、パス無し例の黒字症例率は人件費出来高配賦にて50.6%(19,778 /39,055)、人件費入院日数配賦にて31.6%(12,334/39,055)1例あたり平均収支は人件費出来高配賦にて-31,951円、人件費入院日数配賦にて-85,054円と黒字症例率、1例あたりの収支のいずれもパス例が高かった。以上の結果より、少なくとも入院診療に関しては、パスの利用により入院日数短縮効果、退院後の早期再入院抑制効果、収支改善効果を生むことが示唆された。
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