研究実績の概要 |
クリニカルパスは(以下パス)、医療安全を含めた医療の質向上を目的としているが、その効果は、入院日数短縮以外に明らかにされていない。本研究では、入院パス、外来パス、地域連携パスにおいて、医療の質、医療安全、経営改善に関する効果を明らかにすることを目的として計画した。平成28~令和2年度の5年間に長崎大学病院に入院した患者を評価した結果、平均入院日数はパス無し例が55,088例で17.3±23.7日、パス例が40,289例で9.8±14.5日と7.5日短く、年度別の比較でも同様の結果だった。医療の質に関し、平成28~30年度の2週間以内の再入院率を評価した結果、パス有り例は253例1.07%に対しパス無し例が926例2.75%と、パス有例の2.57倍であり、パス無し例の再入院率が高かった。経営改善効果については、平成28~令和2年度の医科退院例に対し、原価計算システムを用いて、DPC単位の収支を比較した結果、パス有例の黒字症例率は人件費出来高配賦にて59.7%、人件費入院日数配賦にて55.5%、1例あたり平均収支は人件費出来高配賦にて-13.924、人件費入院日数配賦にて76,092円、パス無し例の黒字症例率は人件費出来高配賦にて52.6%、人件費入院日数配賦にて31.0%、1例あたり平均収支は人件費出来高配賦にて-50,555円、人件費入院日数配賦にて-111,559円と黒字症例率、1例あたりの収支のいずれもパス例が有意に良好だった。(p<0.01)、また外来パスについては、術前検査パスにおいてその安全効果と経営面での有効性を示した。以上の結果より、パスの利用は入院日数短縮効果、退院後の早期再入院抑制効果、収支改善効果そして、医療安全面での効果が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「1.入院クリニカルパスの効果評価」では、①入院日数に関する評価、②医療の質に関する評価、④病院経営に関する評価に向け、昨年度の結果に、令和2年度分を加え分析し、パスの有効性を示した。「2.外来クリニカルパスの効果評価」では、長崎大学病院で運用中の外来パスである術前検査パスの利用例の効果を、平成28年度から令和2年度の5年間を対象に評価した。本院で手術後、退院した患者47,362例に対し、入院日数、入院期間II内退院率、入院期間IIの1週間超退院率、支出、粗利、収支の各平均をパスの利用の有無とパス使用でかつ術前検査の有無の3群間で比較したところ、術前検査有例と無例、パス未使用例の平均入院日数は、それぞれ10.0±8.0日、12.0±14.9日、20.6±26.2日、入院期間II内退院率は73.5%、65.5%、59.3%、入院期間IIから1週間超退院率は3.6%、6.8%、17.2%、平均支出は521,382円、722,077円、1,100,320円、平均粗利は、708,251円、541,499円、765,645円、平均収支の出来高配布は134,474円、-49,394円、-87,720円、平均収支の入院日数配布は338,952円、88,814円、-6,126円であり、術前検査無例とパス未使用間の出来高配布を除き、いずれも有意差を認めたことから(p<0.01)、入院パス、外来パスともに、利用例が安全面、経営収支面でも有効であることを示した。なお、本院の呼吸器内科と呼吸器外科は、本術前検査の利用例が非利用例に対し、手術時間、麻酔時間ともに有意に短かった点を報告しており、安全面での効果が証明された。なお、「3.地域連携パスの評価」については新たに心不全パスに取り組み、運用開始した。来年度はこれを評価対象とする。
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