日本において新薬創出を継続的に行なうためには、シーズの発見だけではなく、医薬品としての商品化までのプロセスを充実する必要がある。本研究では、創薬を推進するための産業的基盤形成を多領域横断的に解析した。医薬品の創出は、医療現場のニーズだけではなく、製薬会社の収益性にも大きく影響される。本年度は特に新薬開発に大きな影響を及ぼす医薬品会社の収益性に注目し、医薬品価格(公定価格である薬価)の変動に影響を与える因子の検討、市場規模の大きな変動をもたらす適応拡大の影響の検討、および競合医薬品における市場投入順序の影響などに関して検討を加えた。まず、2010年以降に上市された新規医薬品に関するデータベースを作成した。データベースに、当該医薬品の予測市場規模(推定利用患者数)および実際の売り上げ、薬価算定方式、加算の有無、治療領域などの情報を加え、今回の検討に用いた。売り上げは価格(薬価)と売上数量の積であるため、それぞれを別々に解析した。解析の結果、使用推定患者数の少ない医薬品のほうが薬価の下落率が有意に小さいことが明らかとなった。また、バイオ医薬品はそれ以外よりも薬価の下落率が小さいことも示された。上市後の適応拡大は使用患者数の大きな増加をもたらすが、再算定(薬価の大幅な切り下げ)の対象となる場合が多い。トータルとして収益性の維持、あるいは増加を続けるためには、多くの適応拡大の可能性を持つタイプの医薬品開発(免疫機能や細胞増殖作用に作用する薬物など)が今後の医薬品開発の中心となることが想定された。一方、そのような可能性を持たない希少疾患治療薬の開発は、ニーズが非常に高いため、システムとして収益性を維持できるような制度の確立が必要となると考えられた。この研究結果は、2023年3月の日本薬学会第143年会でシンポジウムを開催し、発表を行った。
|