研究課題
本年度はまず、研究代表者らによる、2016年4月~2020年3月の科研基盤(C)「効率的かつ公平な医療資源配分方法の確立に関する基礎的研究」の成果をレビューし、解決すべき課題を明らかにした。がんなどのlife-threatening diseaseにおける、薬剤の償還可否の判断に関わる評価基準(criteria)の選定と重みづけ調査を、一般人と医療専門職(医師、薬剤師、看護師)を対象に行った結果と、慢性疾患などのnon life-threatening diseaseにおける、上記と同様の調査の結果をレビューした。文献調査に基づき3名の研究者パネルによってまず26個まで基準の絞り込み、次に医師、薬剤師、看護師各100人、一般人400人を対象にweb調査を行った結果は、「自己負担額」「副作用」「症状緩和」「費用対効果」「生産性損失」「生存期間」「社会的便益」が、疾病領域と職種横断的に相対的に重要な基準であった。life-threatening diseaseではこれらに「予算影響」も重要な基準に加わった。また、職種別の特徴としては、一般人と看護師は「症状緩和」が、医師と薬剤師は「費用対効果」に重きを置いていた。次に、世界的な共同研究グループが開発したMCDAツールである「EVIDEM flamework」の日本における実施可能性を検討する目的で、日本語版の開発と次の検討を行った。具体的な血液癌治療薬を想定したイタリアの研究を参考に、血液癌患者382人と、血液癌専門医243人を対象とした評価基準に関するweb調査をまず行った。決められた13個の基準のうち、両者ともに「重症度」の重要度が最も高く「非医学的な費用」の重要度が最も低かった。さらに、評価基準に関する重み付け方法と価値関数についての基礎的検討も行ったが、これらの結果の解釈については次年度以降に行う予定である。
3: やや遅れている
新型コロナ禍の影響もあり、年間を通して、研究者が一堂に会して研究計画立案の協議や、前の科研で行ってきた調査結果の検討が十分に進められたとは言えない。また、国際学会も対面でできなくなったことから全体に縮小化されるとともに、現地で他の研究者との交流の機会もなく、一部webinarで勉強はしたものの、この分野の研究についての国際的な進捗状況が十分に把握できたとは言えない。
本年度より、文献の系統的レビューやpatient and public involvement (PPI)を専門とする研究者(立命館大学 助教 兼安貴子氏)を分担研究者に加えることにより、より、国際的な文献や情報収集と、多角的価値基準についての研究を強化できることを期待している。2021年度は、2020年度の情報収集や我々の前科研の結果からの課題抽出を行うとともに、評価基準の重みについてのweb調査として、対象疾患について、当初の計画通り、難病領域や救急医療の領域について計画、実行する。また、相対的重みの調査方法と価値関数から得られた価値の直線性についての議論に結論を出し、評価基準の重み調査の方法を確定する。次に、前科研で当初予定していた、血液癌治療薬のシナリオを用いたEVIDEM flameworkの調査の困難さ(患者はもとより、医療の専門家にとっても提示したシナリオが難しすぎて、実行可能性に難があると判断した)の経験から、日本における実施可能性調査としては、まず、乳癌治療薬や慢性疾患に対する治療薬のシナリオを用いた調査を計画し、開始する予定である。
新型コロナ禍の影響で、研究者間の意見交換の場が十分持てず、従来行ってきた研究についての検証やレビューの一部が2021年度に持ち越された。また、海外の研究の進捗情報についての情報収集も滞り、2021年度以降の作業に持ち越すことになった。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (16件) (うち国際共著 1件、 査読あり 14件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (3件)
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