研究課題/領域番号 |
20K10412
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
佐藤 智彦 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (90553694)
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研究分担者 |
田崎 哲典 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (80285626)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 輸血副作用 / 輸血関連循環過負荷 / アクティブサーベイランス / 輸血教育 |
研究実績の概要 |
本研究の一つ目の主軸「輸血関連循環過負荷(TACO)のactive surveillance」の実施に先立ち、2018年の慈恵大学病院での電子カルテシステム導入から2019年までの輸血症例を対象に、従来の報告スタイル(passive reporting: 臨床医による副作用報告)でのTACO発症数(疑い例含む)を集計した。2018年に7件(赤血球4件、血小板3件)、2019年に1件(血小板)の報告があったが、予想よりも少なかったため、調査期間を2020年まで拡大した。2020年は4件(血小板3件、血漿1件)の報告があった。その12件のうち6件は、日本赤十字社に輸血後呼吸困難の原因調査(臨床データと該当血液製剤からTACO、輸血関連急性肺障害TRALIなどの可能性を精査)を依頼し、そのうち2件が「TACOを否定できない(TACO疑い)」と判断された。上記事情から、現在は2018~2020年の輸血症例を対象に「HOPE/DWH-GX」ソフトを用いて、電子カルテ上の複数条件を組み合わせて、TACO事例の抽出を試みている。 二つ目の主軸「TACOに関する輸血教育用教材の作成」については、後方視的調査で発見されたTACO疑い5例の臨床データをもとに、臨床シナリオ・講義スライド等を現在作成中である。また、本研究に関連して、TACOやTRALIを含む輸血副作用の原因となる血液製剤の国内の供給が再興感染症の影響を受けていること(Sato et al., NEJM 2020;382(24):2379)、TACO発症のリスク因子となる心疾患(不整脈性)に対する埋め込み型除細動器の効果について(Sato et al., NEJM 2021;384(7):678)、国内での血小板輸血副作用のまとめ(Sato et al., Ann Blood 2021 in press)、を発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず一つ目の「TACOのactive surveillance」の一環としての後方視的調査の遅れについて、分析対象を2019年までから2020年までに拡大したこと、電子カルテシステム上で複数条件を検索する適切なソフトを担保するまでに時間を要したことが挙げられる。これまでの当院輸血部門での不適正輸血の監査からTACO疑い例が10件前後抽出されているが、輸血中あるいは後に呼吸困難が発生した際の電子カルテの記載が十分ではない例が散見されている(輸血副作用として「呼吸困難」は報告しているがその詳細が電子カルテ上に示されていない)。これは、「HOPE/DWH-GX」ソフトを用いた、電子カルテ上の複数条件によるTACOのactive surveillanceの実施に負の影響を及ぼすものであり、抽出条件について再検討している状況にある。また、後方視的調査期間内のTACO疑い例の事例分析はおおむね順調に進んでいる。そして、二つ目の「TACOに関する輸血教育用教材の作成」について、後方視的調査期間内に発見されたTACO疑い例の教材化はおおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
一つ目の「TACOのactive surveillance」について、「HOPE/DWH-GX」ソフトを用いた、電子カルテ上の複数条件による後方視的サーベイランスを引き続き行っていく。特に、どの条件の組み合わせがTACO疑い例の抽出に最適なのかを検証していく。また、後方視的調査期間内のTACO疑い例の事例分析を進めていき、約30例に達した時点でTACO発症リスク分析(可能ならスコアリング化)を行っていく。二つ目の「TACOに関する輸血教育用教材の作成」について、TACO疑い例の教材化を引き続き進めていき、院内での輸血教育機会を用いてその教材を使用していき、同教材の妥当性を検証していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大により国内での研究打ち合わせや国内外の学会参加が不可能であったため、旅費およびその他の経費に多くの余剰が生じた。また、初年度に投稿したいずれの論文も投稿費用が発生しなかったために予定よりも支出額が少なかった。次年度使用額については、本研究に関連する書籍や教材作成に要する機器の購入、学術誌への複数の論文投稿費に充てながら、当初の研究費(2年次)を用いて本研究を積極的に進めていく予定である。
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