研究課題/領域番号 |
20K10412
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
佐藤 智彦 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (90553694)
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研究分担者 |
田崎 哲典 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (80285626)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 輸血副作用 / 輸血関連循環過負荷 / アクティブサーベイランス / 輸血教育 |
研究実績の概要 |
輸血関連循環過負荷(TACO)のactive surveillanceについて、後方視的調査期間を2018年4月から2021年9月までに延ばし、計4,851症例(実患者数)を対象とした。その中でTACO発症を疑わせる「呼吸困難」が21件、「血圧低下」が27件あった。同期間内で日本赤十字社の詳細調査を依頼した18例のうち、1例がTACO、3例がTACO疑い、1例がp-TRALIと判断された。4,851例のうち、輸血後24時間以内に「①胸部X線撮影」を受けた者が498名、「②酸素飽和度(SpO2)90%以下」を示した者が201名、「動脈血液ガス分析」を受けた者が96名であった。①~③の各検査・測定(とその組み合わせ)の実施率が実際のTACO発症例とそれ以外でどの程度異なるのかを把握するために、全例の各輸血実施日から1週間以内の電子カルテ記録を個別に調査している。そして、カルテ記録の中で、「呼吸」「困難」「呼吸苦」「SpO2」「酸素」といったキーワードを抽出して、TACO疑い例(とそれ以外の症例)でのカルテ記録の特徴の分析を進めている。TACOに関する輸血教育用教材の作成について、これまでのTACO疑い例の臨床データをもとに、輸血副作用に関する教育スライド等を作成した。当院麻酔科勉強会(2022年1月開催)にて同スライドを用いた講義を行った。本研究に関連して、心臓手術における制限輸血と非制限輸血によるTACOやTRALIの発症率の違い(JAMA 2021)、TACO発症の契機になる赤血球輸血の適正さと貧血コントロール(Lancet Haematol 2021, NEJM, 2021)に関するコメント、国内での血小板輸血副反応のまとめ(Ann Blood, 2021)を発表している。その他に、輸血教育に関する学会発表、「指導方法」に関する教育研究報告もしている(発表実績欄参照)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
まず「TACOのactive surveillance」の一環としての後方視的調査の遅れについて、分析対象を2021年までに拡大したこと、4000例を超える症例の中からTACO疑いに相当する症例を各電子カルテ記録から個別に抽出する必要があることが挙げられる。そして、タイムリーなTACO発症予防に向けたprospective studyの実施可能性が極めて低いことも挙げられる。そのため、より多い症例数での後方視的調査を目指して進めている。これまでの当院輸血部門での不適正輸血の監査からTACO疑い例が10件前後抽出されているが、輸血中あるいは後に呼吸困難が発生した際の電子カルテ記載が十分ではない例が散見されている(輸血副作用として「呼吸困難」は報告しているがその詳細が電子カルテ上に示されていない)。そのため、電子カルテ上での抽出条件を再検討するとともに、対象症例の個別電子カルテ記録から輸血後急性呼吸障害の発症を疑う記載がないか確認する必要があると判断した。また調査期間内のTACO疑い例の事例分析はおおむね順調に進んでいる。二つ目の「TACOに関する輸血教育用教材の作成」について、後方視的調査期間内に発見されたTACO疑い例を含めた教育スライドを作成して、院内麻酔科医対象の講義(研修)も行った。同スライドを用いて啓発活動を順次進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
「TACOのactive surveillance」について、対象症例の電子カルテ記録のレビューからTACO疑い例数を確定した上で、電子カルテ上の複数条件による後方視的サーベイランスの実施可能性を検討していく。特に、電子カルテ上の経過記録における「呼吸苦」等のキーワードがTACO疑い例の抽出に適しているのかについても検証していく。また、調査期間内のTACO疑い例の事例分析をさらに進めていき、約30例に達した時点でTACO発症リスク分析(可能ならスコアリング化)を行っていく。「TACOに関する輸血教育用教材の作成」について、TACO疑い例の教材化を引き続き進めていき、院内での輸血教育機会を用いてその教材を使用していき、同教材の妥当性を検証していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実施状況およびその研究成果発表に遅れが生じていること、コロナ禍により国際学会の現地参加がかなわないこと、等の理由により次年度使用額が生じている。別欄記載の今後の計画を進め、結果の解析および成果発表を順次進めていく予定である。
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