研究課題/領域番号 |
20K10424
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
斎藤 健 北海道大学, 保健科学研究院, 客員研究員 (40153811)
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研究分担者 |
藏崎 正明 北海道大学, 地球環境科学研究院, 客員研究員 (80161727)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / 栄養 / 次世代影響 / 糖・脂質代謝 / オートファジー / 高脂肪食 |
研究実績の概要 |
近年、タンパク質や小器官を分解する機構であるオートファジーが、脂質滴を分解することが報告され、肝臓の脂質代謝に重要な役割を果たしていることが明らかになった。本年度は、これまで報告した子孫の肝臓における脂質代謝異常に関連して、オートファジーの機能に何らかの変動が生じた可能性を検討した。 妊娠中のWistarラットを3群に分け、F群では、妊娠期および授乳期に高脂肪食(脂肪分45%)を与え、離乳後の雄子孫に高脂肪食与えた。FG群では、F群の授乳期のみに緑茶抽出物含有高脂肪食を与えた。対照群C群では、母ラットおよび離乳後の雄子ラットに対照食(脂肪分13%)を与えた。各群の雄子ラットを51週齢まで飼育した後、肝臓を採取した。オートファジー関連タンパク質のレベルをウェスタンブロッティングで測定し、一元配置分散分析の後、多重比較検定を用いて解析した。 F群ではC群に比べ、p-p62(ser403)のレベルが有意に高い値を示した。一方、FG群ではF群と比べ、p-p62のレベルが有意に低い値を示した。さらに、オートファゴソームとリソソームの融合に重要なLamp2、Vamp8、snap29のレベルがF群ではC群に比べ、いずれも有意な高値を示した。一方、FG群ではF群と比較して、Lamp2が減少傾向、Vamp8が有意に減少した。これらの結果から、F群はオートファジー機能が滞っていること、オートファジー誘導に対するオートファゴソーム形成が正常に応答していないことが示唆された。FG群では、F群におけるオートファジー機能の異常が、正常レベルまで改善されることが示唆された。 本研究により、妊娠・授乳期および離乳後の高脂肪食摂取が、成熟期の子孫の肝臓で、オートファジーを停滞させることを初めて示した。一方、緑茶抽出物摂取はオートファジーの機能低下を正常な状態に改善する効果があることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
covid-19の影響で、研究室での研究時間や人数に制限が生じたが、動物実験を遂行して、胎児期から継続する高脂肪食環境が誘導する肝臓 のオートファジー機能への影響と、それに対する授乳期母親のポリフェノール摂取による保護作用を検討し、妊娠・授乳期および離乳後の高脂肪食摂取が、成熟期の子孫の肝臓で、オートファジーを停滞させることを初めて示した。さらに、緑茶抽出物摂取はオートファジーの機能低下を正常な状態に改善する効果があることが明らかにした。また、これらの成果を、専門学会で 発表(紙上発表を含む)することができた。 しかし、本研究の成果を英文論文として執筆しているがアクセプトにまで至らなかったこと、母親の低栄養食による次世代の成熟期の脂質代謝や生体機能への影響およびポリフェノールによる改善効果に関する研究の実験の進行が若干遅れたが、来年度には完成できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、授乳期および発達期の高栄養環境が仔の成熟期において肝臓への脂質蓄積を誘導すること、その作用機序は、肝臓での脂質合成の減少、血 液からの脂質の取り込みの増加および肝臓から全身への脂質供給の減少によること、その影響に対して、授乳期の母親のポ リフェノール摂取が改善効果を示すことを明らかにすることができた。さらに本年度の研究により、妊娠・授乳期および離乳後の高脂肪食摂取が、成熟期の子孫の肝臓で、オートファジーを停滞させることを初めて示した。一方、緑茶抽出物摂取はオートファジーの機能低下を正常な状態に改善する効果があることが明らかになった。これらの結果を踏まえて、高栄養環境が誘導する肝臓への脂質蓄積の原因と影響について 、脂肪代謝に密接に関連することが知られている生体機能、アポトーシス機能や脳機能の変動とそのメカニズムの解明を図る。 さらに、母親の低栄養環境が次世代の成熟期の糖・脂質代謝に及ぼすアポトーシス機能におよぼす影響とその作用機序、さらには、授乳期の母親のポリフェノール摂取による改善効果につい て動物実験を進める予定である。 これらの研究を取りまとめ、妊娠期の栄養環境の変化による次世代の糖脂質代謝機能異常を防ぐ物質を食品中から探索し、その機能性物質を用いた制 御法および予防法の開発に貢献する。
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次年度使用額が生じた理由 |
covid-19の影響により、得られた成果による学会発表が紙上発表となり、学会参加のための旅費の支出がなくなった。さらに、covid-19の影響により、研究室で の研究実施において、人数および時間制限が設けられたので、それに伴う物品費、人件費の支出が減少したため。 来年度に繰り越した助成金は、若干遅れていた母親の低栄養食による次世代の成熟期の脂質代謝や機能への影響およびポリフェノールの改善効果に関する研究などの実験研究を遂行するための研究費に充当する。さらに、本成果の国際学会での発表や英文論文の投稿費などに使用予定である。
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