研究課題/領域番号 |
20K10426
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
嵯峨 知生 秋田大学, 医学部附属病院, 准教授 (80459809)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 抗菌薬耐性菌 / 渡航 / 世界流行系統 |
研究実績の概要 |
抗菌薬耐性菌の増加は今や深刻な国際的脅威と認識されている。耐性菌は、従来から考えられてきた患者体内での選択ではなく、すでに出来上がった耐性菌が地域を越えて分布する『世界流行系統』耐性菌が存在することが明らかにされつつある。しかし世界流行系統の伝播経路は未解明であった。また、渡航は耐性菌獲得リスクだが、市中の健常者の渡航が医療現場の耐性菌に及ぼす影響は未評価である。耐性菌の伝播実態の解明を通じて伝播遮断による根本的な耐性制御につなげることを狙っている。 地方の医療現場にも『世界流行系統』耐性大腸菌ST131-fimH30が存在し、その性質は海外からの報告と共通していたというこれまでの研究成果に立脚し、渡航による耐性菌獲得および渡航者が地域の医療現場の耐性菌に及ぼす影響を直接評価することを目的として、次世代シーケンサを活用した渡航者獲得菌の全ゲノム解析での近縁性評価と耐性菌の系統組成の評価系の構築を行うための準備を進めてきた。 今年度は、同時期に当院および世界各国で臨床分離された耐性大腸菌についてin silicoでの系統解析を実施した。NCBI assemblyから得た163,730配列の大腸菌ゲノムアセンブリのうち2017年に分離されたST131-fimH30は583配列見いだされた。これと当院で2017年に臨床分離されたST131-fimH30大腸菌14菌株の情報を、cgMLSTの系統樹を作成した。その結果、当院の14配列は、極めて近縁のペアが3組あったのみで、それ以外の菌株間の系統は互いに離れており、当院よりも海外分離株のほうが近縁である場合が多かった。複数の亜系統の耐性大腸菌の世界的伝播の一端が当院で観察された貴重な知見であると考えている。 これに加えて、標準法に準拠した微量液体希釈法による薬剤感受性測定を実施し、耐性大腸菌の多剤耐性の保有の有無を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
引き続き今年度も新型コロナウイルス感染症のパンデミックのため、海外渡航自体が大きな制約を受けたため、渡航者を対象とする本研究への影響は大きかった。加えて感染制御の現場も新型コロナ感染症対応に追われる状況が続いていた。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症のパンデミックで海外渡航自体が大きな制約を受けている状況が続いていたが、2023年5月の新型コロナの5類移行、海外渡航再開の機運が高まっており、渡航者を対象とする本研究の検体採取が可能となる見込みが高まっている。そのような中、次世代シークエンサ活用環境に加えてin silicoでの系統解析や薬剤感受性測定環境を整備することができた意義は大きく、これらを活用して研究の進展を図りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響を受け、本研究に必要な渡航者の確保が以前と比べて大幅に困難になったため。また、微生物検査室および感染制御部の業務が新型コロナウイルス感染症対応に大幅にシフトしたため。 次年度以降、新型コロナウイルス感染症の終息後に、本年度実施を見送らざるを得なかった検討を行う予定としている。
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