研究課題
本年度は、福井県の化学工場でo-toluidine(OTD)などの芳香族アミンを扱った従業員から発症した膀胱癌の遺伝子変異について、大阪市立大学医学部附属病院の一般の膀胱癌症例とともに次世代シークエンサーデータの再検討を行った。方法として、一般の膀胱癌については喫煙者および非喫煙者をそれぞれ分類し比較するとともに、東北大学東北メディカル・メガバンク機構に登録されている日本人に存在するSNPsを取り除き、いずれの症例も腫瘍含有率が80%以上のため、Variant Frequencyが30%以上存在する変異のみ検討することで、発症した腫瘍の性質がより反映された結果を目指した。その結果、職業性膀胱癌および一般の喫煙者由来の膀胱癌において、非喫煙者由来の膀胱癌よりも1症例あたりの遺伝子変位数が多く存在した。また、職業性膀胱癌において、一般の非喫煙者由来の膀胱癌よりもTP53遺伝子の変異割合が高い傾向を示した。さらに、職業性膀胱癌において、一般の膀胱癌症例に比べ、置換塩基がGとなる割合が高い傾向を示した。これらの結果は、職業性膀胱癌において芳香族アミンによる特異的な変異が存在する可能性とともに、癌抑制遺伝子TP53の変異を介した発がん機序が重要であることが示唆された。今現在、芳香族アミン曝露職業性膀胱癌と一般の膀胱癌の次世代シークエンサーを用いた全ゲノム解析を行い、その詳細な遺伝子の異常を比較検討している。
2: おおむね順調に進展している
本年度からの計画として、芳香族アミン曝露職業性膀胱癌と一般の膀胱癌の次世代シークエンサーを用いた全ゲノム解析を実施している。その中で、次世代シークエンサーデータの再検討を行った結果、職業性膀胱癌における特異的な発がん機序や発生要因の検討に資するデータを取得し、上記の詳細な遺伝子変異結果を検討するにあたり指針となる結果が得られており、当初の予定通りに進められる状況である。また、来年度計画に向けて、去年度行ったラットを用いた芳香族アミンの短期曝露実験より見出された遺伝子発現異常からの腫瘍発生メカニズムに関わる候補因子が選出されており、上記のヒト職業性膀胱癌の次世代シークエンサーを用いたゲノム解析結果とともに、本実験の目標である総合的な芳香族アミンによる発がんメカニズム解明が期待出来るデータを取得している。以上から、おおむね順調に進展していると考える。
今後は、今現在実施している職業性膀胱癌と一般の膀胱癌の次世代シークエンサーを用いた全ゲノム解析の結果を基に、芳香族アミン曝露特異的な変異シグナチャー解析を進め、去年度のラットを用いた芳香族アミンの短期曝露実験から得られた膀胱上皮における変異シグナチャー解析とともに、芳香族アミン特異的な職業性膀胱発がんの特徴を見出す。その際に、職業性膀胱癌特異的な因子として、本年度の成果であるTP53遺伝子関連に着目して検討する。また、去年度のラットを用いた芳香族アミンの短期曝露実験から得られた腫瘍発生候補因子についてヒト職業性膀胱癌においても検証し、総合的な芳香族アミンによる発がんメカニズム解明を行う。
本年度実施している膀胱癌の次世代シークエンサーを用いた全ゲノム解析において、一部が解析途中であるため、支払い予定である費用を来年度に計上するため、繰り越しを行う。
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