研究課題
薬剤耐性菌は、ヒトのみならず家畜、愛玩動物、食品、環境など様々な分野から分離されるため、これらの領域について包括的に対策を講じようとするワンヘルス概念が推奨されている。本研究では薬剤耐性菌がヒトへ伝播する経路として考えられる、野菜および野生動物(主に鹿)に着目し、それぞれから分離される薬剤耐性菌の実態解明ならびにその特徴について解析してきた。最終年度は、前年に引続き国内の生息地域の異なる野生の鹿と動物園で飼育されている鹿の糞便収集を行い、それぞれが保有する薬剤耐性菌の解析を行った。研究期間を通して次の2点を明らかにした。①分離頻度は低いものの野菜から第3世代セファロスポリン系薬耐性肺炎桿菌を分離した。これら野菜分離株のゲノムタイプがヒト臨床分離株のゲノムタイプと同じであったため、野菜からヒトへの薬剤耐性菌の伝播について、今後更なる検体収集と解析が必要である。なお、野菜の栽培環境の土壌から分離した腸内細菌科には薬剤に耐性を示す菌はなかった。②野生動物について、観光地でヒトとの接触機会が多い奈良公園の鹿に注目したところ、第3世代セファロスポリン系薬耐性大腸菌を半数以上の鹿が保有していることがわかった。これらの耐性菌は全て基質特異性拡張型β-ラクタマーゼを産生していた。生息地域の異なる野生鹿と動物園の鹿から分離した薬剤耐性大腸菌を解析し比較した結果、奈良公園には特有のゲノムタイプの薬剤耐性大腸菌が拡がっていることが示唆された。また生息場所や地域によりゲノムタイプが異なる傾向にあり、どの地域からもヒトから分離されるタイプの大腸菌はほとんど分離されなかった。今後は、これらの鹿の生息地域に住む住民や動物に関わるヒトの耐性菌の実態調査を行うことで、野生動物からヒトへの耐性菌の伝播の状況を把握できると考える。
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One Health
巻: 16 ページ: 100524~100524
10.1016/j.onehlt.2023.100524