研究課題/領域番号 |
20K10435
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研究機関 | 獨協医科大学 |
研究代表者 |
藤田 博美 獨協医科大学, 医学部, 特任教授 (60142931)
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研究分担者 |
若尾 宏 獨協医科大学, 医学部, 教授 (10280950)
杉本 智恵 獨協医科大学, 医学部, 准教授 (60469955)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | MAIT細胞 / 肺がん / リンパ腫 / NK細胞 / iPS細胞 / 細胞傷害活性 / マウス |
研究実績の概要 |
MAIT細胞は自然免疫細胞と適応免疫細胞の両性質を併せ持ち、自然免疫と適応免疫との橋渡しを行っている。このためMAIT細胞は自己免疫疾患、アレルギー疾患、ウイルス/バクテリア感染、生活習慣病、がんなど様々な疾患に関与する。各種がん患者のがん部位においてMAIT細胞はがん浸潤リンパ球として豊富に存在することが知られているが、抗がんに作用するのか、逆にがん増殖・進展を促進するのかは不明であった。我々はマウスMAIT細胞からiPS細胞を樹立し、iPS細胞から再度MAIT細胞を分化誘導することで大量のMAIT様細胞(reMAIT細胞)を産生する技術を確立した。昨年度までの研究でreMAIT細胞は抗がん活性を有し、この活性はNK細胞依存的であること示した。これを踏まえて今年度はreMAIT細胞とNK細胞との相互作用を分子レベルで明らかにした。reMAIT細胞とNK細胞との共培養により、reMAIT細胞はNK細胞用量依存的に活性化されたがNK細胞では活性化が見られなかった。また、real-time PCR解析によりreMAIT細胞では細胞傷害活性に必要なGranzyme a, Fas-ligand, Tnfsf10とIl17a, Il6などの炎症性サイトカインの転写物の発現上昇が見られたのに対してNK細胞ではGranzyme aとケモカインCcl5の発現亢進が観察された。さらに培養上清を用いたサイトカイン測定ではIFN-gamma, TNF-alapha, IL-22, MIP1a/bの産生が見られた。reMAIT細胞は単独でリンパ腫であるYac-1や肺がん細胞LLCを殺傷し、この活性はNK細胞によって促進された。以上から、reMAIT細胞は様々ながんを殺傷することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の報告書中で今年度に予定していた研究計画はほぼ全て完了することができた。特にreMAIT細胞とNK細胞との共培養による活性化如何、各細胞における細胞傷害活性や炎症に関わる分子の転写物同定は、in vivoの抗がん活性におけるMAIT細胞とNK細胞との相互作用を強く示唆するもので、今後の中皮腫への応用を鑑みると非常に意義深い。活性化に関してはreMAIT細胞でNK細胞用量依存性のCD69 (活性化マーカー)の発現亢進が見られた。また、この活性化の結果として培養液中に放出されたサイトカインやケモカインはMAIT細胞とNK細胞の存在ががん微小環境へどの様な影響を及ぼすかを考える時に重要となる。特にIFN-gammaとIL-17A産生はこれら細胞が抗がん作用を示す傍証となる事実である。さらに、reMAIT細胞の細胞傷害活性を測定し、その標的はある種のがんのみに限定されないことを見出した。これは従来の細胞傷害性T細胞が特定のがん抗原のみを認識してこれを殺傷することと対照的であり、将来のがん免疫療法におけるreMAIT細胞の優位性を示したものである。このreMAIT細胞の細胞傷害活性はNK細胞によりさらに強化されることも証明できた。以上から、reMAIT細胞を用いた中皮腫免疫療法への基盤を固めることができたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はreMAIT細胞もつがん細胞傷害活性をさらに発展させ、これを中皮腫の免疫療法開発に結びつけるため、以下の研究を予定している。 中皮腫特異的に発現する「がん抗原」を認識するchimeric antigen receptor (CAR)を有するreMAIT細胞(CAR-reMAIT細胞)を用いた研究。reMAIT細胞は様々ながんを認識し、細胞傷害活性を発揮するが、がん種によってその活性は異なり、このままでは免疫療法に使用できない。そこで、reMAIT細胞にCARを発現させ、ある種のがんを特異的に認識させることで、その傷害活性を亢進することができるのか否かを明らかにする。具体的には中皮腫に多く発現するmesothelinを認識するCARを発現するCAR-MAIT細胞をiPS細胞から分化誘導し、これをmesothelin高発現がん細胞を移植したマウスに養子移入することで、その抗がん活性を評価する。抗がん評価はマウスの生存期間測定により行い、対照群としてCARを発現しないreMAIT細胞を養子移入する群、並びにがん細胞のみを移植した群を設定する。また、同時並行にてCAR-reMAIT細胞とreMAIT細胞を用いてこれら細胞間にmesothlinを高発現するがん細胞を殺傷する能力の差異があるのかを細胞傷害活性測定により明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度までに研究遂行のための消耗品購入を行なったが、このうち細胞実験において試薬類、特に抗体、サイトカインにおいて、当該研究費取得以前からのストックが存在していたため、これらの購入を見送った結果次年度使用の繰越が生じた。この繰り越しは来年度中に使用する予定である。
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