珪肺症患者では、呼吸器病変に加え、高頻度で自己免疫疾患を合併する。本研究の問いは珪肺症で「何が」自己免疫疾患発症の「きっかけ」となるのかを明らかにすることである。 我々は健常人由来樹状細胞とT細胞の混合培養系に、珪酸と外来因子の受容体であるToll like receptor (TLR)のリガンドを同時に添加すると、リガンドごとにユニークな炎症性サイトカインの発現があることをマルチプレックスアッセイを用いて見いだした。これは、珪酸存在下である種の感染イベントが「きっかけ」となり自己免疫異常へ傾向する可能性を示唆している。そこで、珪酸曝露下で外来因子であるTLRリガンドが健常人T細胞の極性化(Thバランス)に及ぼす影響を解析し、さらに珪酸がマクロファージの分化に影響するか検討した。Th1、Th2、Th17およびTregのマスター因子と言われる転写因子(GATA3、Tbet、RORc、FoxP3)のmRNA発現を検討したが、珪酸曝露による極性の違いは見られなかった。次に、珪酸曝露下で各種TLRリガンドを添加することがTh極性化の割合に影響を及ぼすかフローサイトメーターを用いて検討した(IFN-g(Th1)、IL-4(Th2)、IL-17(Th17))が、直接影響を与えることは検出されなかった。そこで、マクロファージのM1、M2分化についてその影響を各種マクロファージマーカーのmRNA発現で検討した。しかし、珪酸曝露の有無はM1、M2分化には影響しなかった。しかし、興味深いことに粒子コントロールとして設定した酸化チタンの群でM2マクロファージマーカーのCD163およびIL-10発現の亢進を見出した。 本研究ではTLRリガンドによる細胞極性への影響は明らかにならなかったが、サイトカインプロファイリングが変化していることから、必ず他のメカニズムがあると考えられる。
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