2022-2023シーズンは3年ぶりにインフルエンザの流行がみとめられ、搬入された検体を用いてインフルエンザウイルスPA遺伝子の塩基配列解析を行った。2021-2022シーズン末に検出された1例も含めて、解析した計27株はすべてAH3亜型で、いずれの株もバロキサビルへの感受性が低下するI38T変異はなかった。合計で最終的にAH1亜型59検体、AH3亜型29検体、B型24検体を解析したが変異株は検出されなかった。 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、研究期間最終年度の冬を除いてインフルエンザの流行が無かったため、新型コロナウイルス変異株の検出および解析を行った。遺伝子変異のスクリーニング解析により、2020年度にD614G変異株、2021年度はアルファ株(B.1.1.7)、デルタ株(B.1.617.2)、オミクロン(B.1.1.529)を検出した。2021年度末はオミクロン株BA.2が中心に検出されたが、2022年度に入りBA.5の割合が徐々に上昇し、以降の第7波、冬の第8波はBA.5系統のウイルスが中心であった。臨床検体から各変異株のウイルス分離を行い、新型コロナmRNAワクチンにより誘導された抗体の変異株に対する中和能を検討した。その結果、ワクチンを2回接種したすべての被験者(n=32)が中和抗体を保有していたが、D614G変異株およびアルファ株と比べてデルタ株、オミクロンBA.1に対する幾何平均抗体価は有意に低かった。ワクチン3回接種者の血清(n=10)については、BA.1に対する中和抗体価が2回接種後より有意に上昇した。BA.2、BA.5に対しても中和能は認められたが、BA.1と比べてBA.5に対する幾何平均抗体価は有意に低かった。以上の結果から、ウイルスの抗原部位の変異によってワクチン誘導抗体の中和能は低下するが、複数回の接種により抗体の親和性が向上したと考えられる。
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