研究課題/領域番号 |
20K10455
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
沖津 祥子 日本大学, 医学部, 客員研究員 (10082215)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ウイルス性胃腸炎 / サポウイルス / 分子疫学 / 感染免疫 |
研究実績の概要 |
単一の小児科クリニックで2014年7月から2017年6月の3年間に検出したサポウイルス(SaV)の解析を行い、論文とした。遺伝子型GI.1の割合が高く(84%)、他に6遺伝子型が検出された。また、GI.1遺伝子型のカプシド領域の全遺伝子配列を決定し、今回検出株と日本で最初に検出された株とのアミノ酸配列を調べ、SaVは30年以上にわたり変異の少ないウイルスであることを明らかとした。 2019年から2021年に同じクリニックから提供された検体からSaVを検出した。この期間はCOVID-19の流行初期にあたり、小児科外来を訪れる患者の減少や、COVID-19感染予防対策の効果によって感染症患者の減少が全国的に報告されており、本研究でもウイルス性胃腸炎患者数の減少のため検討検体数が減少した。2017-2020年の3年間の検体に関してはその検出方法をOkaらの方法に変更し、前方法と比較したところ、検出率、検出可能な遺伝子型が増加した。3年間で546検体中SaVは38検体が陽性(7.0%)であった。2014-2017年の検出率は5%でともにこれまでの日本の検出頻度と同様であった。7遺伝子型が検出され、GI.1が11/38(28.9%)と多いが頻度は下がり、以下GI.2(8/38:21.1%)、GII.3(6/38:15.8%)、GII.1(5/38: 13.2%)、GII.2 (4/38: 10.5%)、GIV.1(3/38: 7.9%)、およびGV.1(1/38:2.6%)となり、前期間にないGII.2とGV.1が検出され、GI.3はなかった。カプシド領域とポリメラーゼ領域での組換え株はなかった。 母親とその出生した児から採取した血清および母乳中の抗SaV抗体を測定するために、研究機関である日本大学および検体採取を行った東京大学において研究倫理審査の申請を行い両機関で承認を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はCOVID-19の流行期にあたり、緊急事態宣言など研究に従事する日数の減少、学術集会の開催延期など不測の事態が生じた。また実績の概要に示したように、ウイルス性胃腸炎患者検体の採取数が減少した。そのためサポウイルス陽性検体も減少した。一方で総検体数の減少のため2019-2020年度の検体についてはSaVの検出とポリメラーゼ領域の解析は終了した。38検体全てについてカプシド全領域の解析を進行中で分子疫学の解析は進んでおり、この点に関してはおおむね順調といえる。 SaV 感染と免疫状況の関係を調べるために血清中の抗SaV抗体価の測定する準備を行っている。現在保有しているSaVウイルス様粒子を用いて酵素抗体法を確立する。これまでに保有している正常人血清などを用いて陽性コントロールとなるサンプルを同定する予定である。また、母親とその児の組み合わせから採取した血清と母乳検体に関しては研究倫理審査を経て承認され、今後使用可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
2017-2020年のSaV陽性38検体について解析を続行する。前期間の検体に関してはGI.1遺伝子型の検体を主として解析したが、この期間については全ての遺伝子型について解析を行い、これまでの流行型との比較をする。研究期間後半では2020年7月~2021年6月にクリニックを訪問したウイルス性胃腸炎患児の検体のスクリーニングと解析を行う。方法は今年度の方法に準じる。SaV陽性検体に関してはポリメラーゼ領域、カプシド全領域の同定を行い、流行株の変異について解析する。新たな組換えウイルス、変異ウイルスが見つかった場合にはウイルス全遺伝子の解析を次世代シークエンサーによって行い、これまでの株との相違点を調べる。 酵素抗体法による抗SaV抗体価の測定のため、予備実験を行う。測定法の整備、陽性検体の特定などを行った後に検体サンプルの測定を行う。過去の文献上、成人ではSaVの抗体陽性率は高いとされている。ヒトの抗SaVIgG抗体標準品がないため、成人の血清など過去に感染実績のあると思われる検体の測定を行い、抗体価の高い検体を選んで、陽性コントロールとして使用し、これに対する比較で抗体価を示す。母親とその出産した児から採取した血清、母乳中の抗体価を測定し、SaVに対する母親からの移行抗体と母乳摂取がSaVに対する感染制御に果たす役割を調べるための基礎的な研究とする。一方で迅速診断法がないSaVでは診断に時間がかかり、SaV感染時の患者検体を採取することは難しい。そこで診療上必要な際に採取した検体を使用することとし、その採取時期と地域での流行期との関係を調べる。また、食中毒などの集団感染があった場合などに抗体測定用の検体の採取を依頼し、測定を行う。これらの検体採取に関してはすでに倫理承認を得ているものを使用し、または必要な場合は倫理承認を得て使用する。
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