研究課題
単一の小児科外来を急性胃腸炎の疑いで受診した小児から得た便検体からサポウイルスの検出を行い、遺伝子型の検査によってその流行を調べた。昨年度検討した2014~2017年に引き続き2017~2020年の結果を詳細に検討した。なお、検体採取は7月から翌年6月を1研究年度としている。カプシド全領域の解析結果から前研究期間と同様に遺伝子群/遺伝子型はGI.1が最頻出であった。すなわち全543例中でサポウイルス陽性は37例(6.8%)でそのうちGI.1は10例(27%)であった。GI.1の中で2つのクラスターの株が流行していた。しかしこれらの株は前研究年度でも検出され、サポウイルスが変異の少ないウイルスであることが再確認できた。カプシドとポリメラーゼ領域での組換え体は検出されなかった。GI.1は10~14ヵ月毎に再流行を繰り返し、ロタウイルスやノロウイルスのような季節性は見られなかった。再感染の2例では異なる遺伝子群/遺伝子型のウイルスが検出された。2020~2021年では新型コロナウイルス感染症の流行のため、採取した総検体数が42検体と減少し、サポウイルス陽性検体はなかった。サポウイルスの人工粒子(virus-like particle: VLP)を用いて酵素抗体法にて乳児から成人までの血清中のIgG 抗体価、および対応する母と乳児の血清および母乳中の抗体価の測定を行った。測定抗原として遺伝子型GI.1とGIV.1を用いた。①乳児から成人までの血清81検体では、2種類の遺伝子型に対する抗体価は年齢との間に関連性は見られず、個人差が大であった。②初乳中のIgA抗体は成乳よりも高かった。③母親、生後6週齢、および14週齢の乳児血清中のIgG抗体価の比較ではGI.1、GV.1ともに母親、6週齢児、14週齢児の順に低下した。一方6週齢児で母親よりもIgG抗体価が高値を示す例もあった。
2: おおむね順調に進展している
現在までに検体採取を依頼しているクリニックから到着している検体(2021年6月まで採取分)についてはスクリーニングが完了している。本年度は新型コロナウイルス感染症の流行のため、その患者検体数は減少した。そのためサポウイルス陽性検体も減少し疫学情報は減少した。このことは公衆衛生の励行によってサポウイルス感染症が減少したことが考えられ、今後の検証が必要である。一方で、同時にスクリーニングを行っているノロウイルスは、2020年に比べ2021年には増加しており、今後サポウイルス感染も増加すると考えられる。ロタウイルス感染は減少傾向が見られ、2020年10月のワクチンの定期接種化による影響が考えられる。2021年7月~2022年6月採取の検体からの検出を継続する予定で2021年6月以降に検体が到着次第スクリーニングを実施する。サポウイルス抗体価の測定に関しては、昨年度共同研究施設から移送した母親と乳児の血清、および母乳中の抗体価の測定をGI.1とGV.1について行った。GI.1は最頻出株の遺伝子型であり、GV.1は2014~2017年の結果では第3位の検出頻度を示す株で遺伝子群が異なり、抗原性も異なることから選択した。以上の進捗状況を考え、おおむね順調と判断した。
これまでの2年間と同様に2021年7月~2022年6月に小児科外来を急性胃腸炎のため受診した小児から便検体を採取し、継続的にサポウイルスのスクリーニングを行い、流行疫学を調べる。陽性検体に関してはカプシド領域の全配列の決定、ポリメラーゼとカプシド領域での組換え体の確認などの解析を継続し、過去に検出されたウイルスとの配列の相違、特に新型コロナウイルス感染症流行前と後との比較を行う。また、同時に他の急性胃腸炎を起こすウイルス(ロタウイルス、ノロウイルス、アストロウイルス)の検出も並行して行い、混合感染が起きていないかを調べる。今年度測定した遺伝子型とは別の遺伝子型抗原に対する抗体価測定の準備中である。酵素抗体法での使用可能量の抗原が準備できたら、幅広い年齢から採取した血清中のIgG抗体価の測定、母親とその出生した児から採取した血清中のIgG抗体および母乳中のIgA抗体価を測定する。その結果によって日本での最頻出遺伝子型と他の遺伝子型の抗原によって抗体獲得動向に差がないか解析をする。現在のところ迅速診断法がないサポウイルスでは診断に時間がかかり、感染時の患者検体を採取することは難しい。そこで診療上必要な際に採取した検体中の抗体価の採取時期と地域での流行期との関係を解析する。もし食中毒などの集団感染があった場合などに抗体測定用の検体の採取を依頼し、測定を行う。これらの検体採取に関してはすでに倫理承認を得ているものを使用し、または必要な場合は倫理承認を得て使用する。
今年度は感染症対策のため急性胃腸炎のために受診した小児の数が減少していることから、ウイルス検出用の試薬、検出したウイルスの配列解析に対する費用が減少した。また海外の国際学会や国内の学術集会への参加を予定していたが、これらが開催延期やオンライン開催となったため、出張費が不要または減額となった。一方で現在これまでの知見の論文化を進めている。投稿誌の多くがOpen access対応となり、そのためにArticle processing chargeが必要となるのでこれに使用する。また、今年度も胃腸炎感染小児からの検体採取を継続するためそのための試薬代、配列解析の委託費に使用する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
Journal of Infection and Public Health
巻: 16 ページ: 315-320
10.1016/j.jiph.2022.01.019
http://www.nihon-u.med-microbe.jp/