研究実績の概要 |
麻疹排除後の麻疹アウトブレイクでは、ワクチン接種歴を有する患者の割合が年々増加している。ワクチン接種歴を有するものの麻疹を発症するSecondary vaccine failureが増加する背景には、集団免疫の低下があると考え、本年度は麻疹血清疫学調査の解析を通じて集団免疫の推移を検討した。 本研究では、厚生労働省感染症流行予測調査事業の一環であり、大阪府が2003年以降参加している麻疹抗体調査のデータから府内の抗体保有率と抗体価、実行再生産数(Re)を算出し、大阪府内の健常人集団における麻疹抗体の推移を調査した。調査期間は2003-2020年で、ゼラチン粒子凝集法(PA法)を用いて健常人ボランティア約250名の血清中の麻疹PA抗体価を毎年測定した。対象期間を第1期:2003-2006年、第2期:2007-2010年、第3期:2011-2014年、第4期:2015-2020年の4つの期間に区切って解析を行った。 第1期886人、第2期1,217人、第3期1,069人、第4期1,544人、全4,716人の血清が採取された。PA検査試薬の基準通りPA抗体価16以上を陽性とした場合、麻疹抗体保有率は第1期(88.3%)から第4期(95.7%)で増加し、第1期の抗体保有率は他の期に比べ有意に低かった(p<0.001)。一方でPA抗体価は第1期(中央値1,024)から第4期(中央値256)にかけて有意に低下した(p<0.001)。麻疹ウイルスの基本再生産数を10とし、感染防御に必要とされるレベル(PA抗体価128以上,256以上)を麻疹抗体陽性とした場合、Reは第1期(1.8, 2.3)から第4期(2.5, 4.8)へ増加した.これらの知見から、大阪府内の健常人では、2003年以降、麻疹抗体保有率は上昇、維持されているが、ワクチンで獲得した免疫自体は減衰し始めている可能性が示唆された。
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