本研究では、地域住民を対象にした前向きコホート研究において、血清中のC1q/tumor necrosis factor (TNF)-related Protein 3 (CTRP3)低値が骨粗しょう症、脆弱性骨折の発症リスクを高めるかを縦断的に検討することを目的とした。2007年から男性2174人を対象に前向きコホート研究を実施した。その内2012人が調査を完遂し、二重エネルギーX線吸収法により骨密度を精密に測定した。また、このベースライン研究の際に参加者から血清を採取し、凍結保存している。この凍結保存血清を用いて、2020年度から2021年度にかけて血清中のCTRP3を酵素結合免疫吸着検定法により1251検体の測定を行った。2022年度は、ベースライン調査を完遂した2012人の内、死亡、調査拒否、住所不明等を除いた1317人に対して、新規の骨折発生を把握するために郵送によるアンケート調査を行った。アンケートを送付した1317人の内、912人から回答が返ってきた。さらに回答が返って来なかった参加者について電話調査を行った。その結果、152人から回答が得られた。これらの回答が得られた者の内、骨粗鬆症性骨折の新規発症者は40人であった。これらのデータを用いた解析から、ベースライン時の血清CTRP3値は破骨細胞にのみ存在する酵素である骨型酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ(TRACP-5b)値と有意な負の関連が見られた。しかしながら、椎体や大腿骨近位部の面積骨密度とは有意な関連は見られなかった。さらに、ベースライン時の血清CTRP3値はその後に発生した骨粗鬆症性骨折とも関連を示さなかった。これらのことから、地域在住の高齢男性において、血清CTRP3は破骨細胞への影響をもつ可能性は示唆されたが、骨粗鬆症性骨折の発症を予測することはできないのかもしれない。
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