研究課題/領域番号 |
20K10489
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
河野 稔明 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部, 客員研究員 (90770438)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 精神保健福祉法 / 自傷他害 / 通報 / 措置診察 / 措置入院 / 退院後支援 / 事例検討会 |
研究実績の概要 |
令和2年度は、川崎市精神保健福祉センター・障害者センター等事例検討会において検討された事例を分析することにより、精神保健福祉法の通報等対象者に対する支援の実態を把握し、支援が転帰にどのように関連したかを把握することを目的とした。「個別票」と呼ばれるチェックシートを用いて振り返る事例の情報に基づき、診察要否判断、支援方針決定、計画支援要否判断に関連する要因を分析すると共に、対象者の転帰に対する支援の影響を検討した。 診察要否判断には精神科の診断歴や受診歴よりも、保護直前の様子に関する項目が強く関連しており、措置入院制度の趣旨に照らして妥当な判断がなされていると思われた。また、決定される支援方針は、周囲とのつながり、生活支援の必要性、すでに受けている支援の主体などにより明確に異なる傾向がみられた。これらの結果により個別票の項目を見直すことができ、修正したものを試用しながら内容の調整を進めている。 実際に行われた支援及び転帰に関しては、市として支援を主に担当する部署が対象者により異なり、また治療や支援が進む中で変わるため、精神保健福祉センターとして状況をリアルタイムで把握するのが容易でない事例もあった。このため、精神保健福祉センターと障害者センター、将来的には区役所とが、通報等対象者に対して行った支援と現在の状況、また現在どの部署が支援を主導しているのかを共有できるようにしておくことが必要と考えられ、職員にもその必要性が認識された。精神保健福祉センターではこれらの情報を共有する仕組みの構築を検討しており、この取組が本研究の目標である通報等事例データベースのフォーマット作成につながると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1年度である令和2年度は、令和元年度の事例検討会において検討された事例の分析を行った。これにより、診察要否判断、支援方針決定、計画支援要否判断の実態と、それらに関連する要因を明らかにすることができた。通報等対象者に対して行われた支援、及び通報から一定期間経過した時点の転帰に関しては、市としての支援が精神保健福祉センターから障害者センター等の他部署に引き継がれている事例において担当部署への個別の照会が必要な場合があり、第1年度は一部事例での予備的分析のみを行った。本格的な分析には対象者の状況をリアルタイムで把握する必要があるため、情報共有の仕組みづくりに着手した。 一方で、分析の結果に基づいて、「個別票」と呼ばれる事例検討のためのチェックシートの項目を見直すことができた。また、先に述べた情報共有の仕組みづくりは、通報等事例データベースのフォーマット作成につながる取組となっている。これらについては、第2・第3年度の研究計画に先行して着手する形となっており、全体としてはおおむね当初の計画どおり進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
第2年度である令和3年度は、通報等対象者に対して行った支援と現在の状況、また現在どの部署が支援を主導しているのかを、精神保健福祉センターと障害者センターとがリアルタイムで共有する仕組みを構築する(改組により令和3年度から両センターとも総合リハビリテーション推進センター内の組織となり、それぞれ「こころの健康課精神科救急調整担当」と「(南部、中部、北部)地域支援室」となる)。情報の共有には、庁内の情報システムの仕様や情報管理の規則を考慮して適切な方法を選択し、また情報の入力・更新のルールなど運用面についても曖昧でなく負担が小さい方法を検討する必要がある。これらについては、精神科救急調整担当と地域支援室の担当職員が協議を行うと共に、関係する部署に相談して進める。通報等対象者の状況がおおむね把握できるようになった段階で、対象者に対して行われた支援、及び通報から一定期間経過した時点の転帰を分析する。 また、項目の見直しを行った個別票に基づいて検討された事例について、診察要否判断、支援方針決定、計画支援要否判断に関連する要因を改めて分析し、項目の妥当性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は、新型コロナウイルス感染症の影響で学会が中止ないしオンライン開催となり、使用を計画していた参加費ないし旅費が不要となった。データ解析用ソフトウェアについては、分析結果を踏まえて選別するのが望ましいと考え、一部が未購入となっている。また、購入したソフトウェアについては計画よりも安価で調達することができた。これらの事情により、次年度使用額が発生した。 令和3年度は、請求した助成金と合わせて、未購入となっているデータ解析用ソフトウェアを購入する予定である。また、学会に演題を登録し、学術誌に論文を投稿する予定であるため、これらの経費に助成金を使用する。ただし、参加を予定していた国際学会は令和4年度に延期となり、この先の状況によっては再延期または中止がありうるため、通報等事例データベースのフォーマット作成の作業の一部を業務委託することも検討する。
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