研究実績の概要 |
原爆被爆者を対象とした疫学研究により,放射線被ばくによるがんおよびがん以外の疾患のリスク増加に関する疫学的証拠が蓄積され,それらの知見は放射線の安全基準や規制の策定に取り入れられている。しかし,これまでに実施された関連研究の大部分では,研究対象者の居住歴の情報については,ほとんど考慮されていないため,転居理由や転居後の生活に関連するがんリスク因子が無視できない場合は,放射線被ばくによるがんリスクの推定値にかなりのバイアスをもたらす可能性がある。本研究では,広島大学原爆放射線医科学研究所が有する原爆被爆者のデータベースに基づき,詳細な居住歴情報を初めて活用し,がん死亡追跡の調査地域を拡大した後ろ向きコホート研究を実施することで,広島の原爆被爆者における, ①居住歴に関連するがんリスクの定量化, ②居住歴を考慮したより正確ながんリスクの定量化 ③居住地に関連した自然放射線による被ばく線量を加味した新たながんリスクモデルの開発と適用を行う。 初年度の2020年度は,被爆者データに連結可能な国内の自然放射線マップのデータベースモジュールを作成することを目標に,日本国内の自然放射線の地理的分布について公表されているガンマ線測定データ(環境放射線データベース,新・全国の放射能一覧,阿部史朗,わが国における自然の空間放射線分布の測定,保健物理, 17,169-193(1982))および屋内ラドン濃度の測定データ(環境放射線データベース)を地理情報システム(ArcGIS)を用いて整理した。
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