研究実績の概要 |
本研究は原爆投下時に長崎市外や市内の山蔭など地形遮蔽地域に居た人で爆発時の直接放射線は免れたが、爆発直後に家族の安否確認や救援のため爆心周辺地区に立ち入り、環境中の残留放射線に被曝した、いわゆる入市被爆者について、残留放射線被曝による人体への健康影響評価を行うことを目的とした。対象は原爆被爆者データベースに登録された長崎市原爆被爆者コホートから約1万5千人の入市被爆者を抽出した。曝露要因である放射線被曝線量については、残留放射線による個人の被曝線量は情報がなく推定できないため、これに代えて被曝線量との関連が考えられる立ち入った地域(爆心からの距離)、時刻および滞在時間といった入市情報を用いることとした。入市情報はもともと紙情報であり、すでに画像化したものを参照しテキスト入力を行った。アウトカムは1970年から2015年までの46年間のがん死亡とした。個人ごとの死亡日、死亡原因の情報により、がんによる死亡までの生存期間について入市情報との関連を調べた。2020~2023年度においては、解析に必要となるデータの入力ツールの作成と入力作業およびデータ・クリーニングを行った。データ入力はダブルエントリーで行った。入力対象の15,214件のうち、欠測425件を除いた14,789件を解析データとした。解析はSAS9.4により、コックス比例ハザードモデルで行った。解析は、地域(0.5km間隔4区分)、立入り時刻(当日21時まで/当日午後/翌日午前まで)、滞在時間(6時間以上/1時間以上)を曝露量に関連する要因の組み合わせといくつかの対照(遠距離地域への県外からを除く遅い時期の立入り、山蔭地域の非立入りとなど)について解析した。少なくとも現在までにがん死亡との有意な関連がみられる要因、または要因の組み合わせは見つかっていないが、関係研究者と共に議論し解析は今後も継続していきたい。
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