研究実績の概要 |
世界の61地域で24時間尿を採取し,栄養のバイオマーカーを活用した研究の結果,大豆・魚の摂取が共に多いのが日本食の特色で、大豆イソフラボンと魚食のタウリンは,共に心筋梗塞の年齢調整死亡率と有意の逆相関を示すことから大豆・魚の摂取量が多い日本人は心筋梗塞の死亡率が先進国中最低で,これが世界トップの平均寿命を支えている事が分かった. しかし,兵庫県での健診結果では,大豆・魚の摂取量の多い第3分位の日本人は第1分位と比較して食塩の摂取量が1日4~5gも多く,高血圧から脳卒中になるため,健康寿命が世界最高の平均寿命より10年も短い原因と推定された。そこで適塩での大豆・魚の摂取が,健康長寿に寄与するか否かを検証するため,本研究では長浜市の住民13,000人を対象とする長浜コホート研究と,佐賀県脊振町住民健診で60歳以上の方を分析した. すでに脳機能検査をした後者の集団・475名中296例につき24時間尿のナトリウム(Na),カリウム(K),マグネシウム(Mg),タウリン(T),イソフラボン(Iso),尿素窒素を分析し,健診時の身体計測,血圧,採血での糖代謝,脂質代謝を検査し,既往症,飲酒,喫煙,食事,運動などとの関係の分析を進めてきた。特に,今年度の研究では,兵庫県住民の健診で,大豆の摂取量の多いIsoとTの第3分位では第1分位に比べて葉酸(F)の血液レベルが高く,認知症予防効果が期待できるところから,脊振健診参加者の血液のFを測定すると共に,これまでの様々な疫学研究で,Fのレベルと関係する動脈硬化の促進に働くホモケステイン(H)を血中で分析すると共に,特に高齢者で非侵襲的な尿検査での測定が可能な24時間尿中でのFやHの測定を進めた. 本研究では大豆,魚の栄養でFがHの抑制で認知機能の維持に寄与するかを検証する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19の世界的流行のため,2020年は長浜健診は中断された.しかし2017年以来,実施して来た脊振健診での24時間尿サンプルの60歳以上の方で脳MRI健診参加者の尿の栄養のバイオマーカーと健診成績の相関関係の分析を進めて,計画以上の成果が得られている.これまで兵庫県民のデータで分った日本食の特色である,大豆,魚の両方の摂取者の最大の欠点である食塩過剰摂取は,平均値が一日9.3gで男女の摂取目標7.5と6.5gを越える者の割合が多く,Na/K比も平均が3.7で世界研究で脳卒中の抑制効果が期待される3未満を越えていた.Na,Na/K比は,体重,BMI,腹囲,収縮期,拡張期の血圧の両方,又は片方との有意の相関を示した。Isoは平均値が兵庫県民で最も多い第3分位の平均を越え,一方Tは日本の6地域の平均値のいずれよりも少ないが,Isoの高値を反映し,Fは平均値が兵庫県民の第3分位の平均に近く,大豆摂取の多い事が明らかになった。日本人ではIsoはMgと相関するが,脊振町のMgの平均は5分割した世界データの第4分位の平均に近く,このMgの高値とFの高値が作用するHにいかに影響するか更なる分析が期待される. 現在,尿のHは分析中で,血中の高値の症例が少ない為,尿による血中レベルの推定については今後の分析が待たれる.これまでの世界健診の成果では日本食は長寿食とみなされる地中海食と共通でMgとTが多いというメリットがあるが,Na過剰という共通の欠点もあり,地中海食はこの欠点をKの十分な摂取で補い,日本食はIsoの摂取が充分で,肥満の抑制に寄与している可能性がある.Mgの多い食生活も肥満抑制が期待されるので, Iso,Mgか共に多い脊振健診の成績からはこの地域でのBMIは平均が23.4と適切な値で,今後の認知症関連の分析が待たれる.
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今後の研究の推進方策 |
認知症予防に適切な栄養摂取の探求が期待される.これまでの世界健診結果では世界一の平均寿命を1980年代に達成したハワイ島在住の日系人の健診では認知機能か簡便なMMSEの評価でも日本の丹後半島の長寿地域住民よりも良かったが,食塩摂取量が一日6gと丹後半島住民の一日8gよりも有意に少なく,かつ血中アルブミン値が有意に高かった.この集団は,蛋白源として大豆は沖縄の伝統食ゴーヤチャンプルで常食しており,魚は遠洋漁業で獲れる魚も常食し,肉や乳製品も米国の食習慣で摂る上に,常夏の気候に恵まれた多様性のある抗酸化食材を摂取し,血中のビタミンEは日本人の倍で,その上24時間尿のIso,T,Mgと関連してFの十分な増加が検証されれば,オクスフォード大学の高齢者におけるFとB6,B12などの2年間のサプリメントの投与で脳萎縮の程度の抑制がなされたという栄養による認知症予防の可能性も検証されると期待される.
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