研究実績の概要 |
日本では2017年より職場ストレスチェック制度が導入され、職業性ストレス簡易調査票をモデルとした質問紙が各事業所で実施されている。本研究では先行研究の成果を踏まえて、労働者の身体愁訴に影響を及ぼす心理社会的・職場的要因を明らかにし、身体愁訴によってうつ病の早期発見や発病予防がどこまで可能であるか検討をした。都内某事業所の労働者2,508人(平均年齢36歳, 女性34%)を対象に、年に1回の職場ストレスチェックの際に、職業性ストレス簡易調査票に加えて、うつ病の身体化に関連する質問紙調査を行った。また職業性ストレス簡易調査票によって高ストレス者と判定された者に対して、身体愁訴とメンタルヘルスに関する詳細な面接と質問紙調査を実施した。その結果、高ストレス者は301人(男性)で、全体の12.0%であった。男女別では、男性に高ストレス者が多い傾向があり(P値0.04, カイ2乗分析)、年齢では20歳代・30歳代の者が、40歳代・50歳代の者に比べて、高ストレス者になる割合が高かった(P値0.006, カイ2乗分析)。高ストレス者の主要な身体症状は、不眠、疲労感、頚部痛、腰痛と続き、平均身体症状数は6.9であった。身体症状数は、失感情症(Pearson相関係数0.42, P<0.001)、身体感覚増幅尺度(0.28, P<0.001)、身体感覚への破局的思考(0.53, P<0.001)、うつ(0.64, P<0.001)、不安(0.56, P<0.001)などと有意な相関を示し、重回帰分析においても、うつは身体症状数に独立して有意に(P<0.001)に関連する因子となった。職場における高ストレス者の身体不調がうつのpredictorになっているという先行研究の結果が改めて支持され、身体感覚増幅や身体感覚への破局的思考が影響が与えていることも明らかとなった。
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