研究課題/領域番号 |
20K10537
|
研究機関 | 大妻女子大学 |
研究代表者 |
清原 康介 大妻女子大学, 家政学部, 准教授 (80581834)
|
研究分担者 |
中田 研 大阪大学, 大学院医学系研究科, 教授 (00283747)
北村 哲久 大阪大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (30639810)
祖父江 友孝 大阪大学, 大学院医学系研究科, 教授 (50270674)
喜多村 祐里 大阪大学, 大学院医学系研究科, 招へい教授 (90294074)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 院外心停止 / 心肺蘇生 / 胸骨圧迫 / AED / 一次救命処置 / 学校 / 児童生徒 |
研究実績の概要 |
本研究は、独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害共済給付のデータと総務省消防庁の全国救急蘇生統計とを結合し、我が国の学校管理下で起こる院外心停止の発生状況から予後までの全体像が把握できるデータベースを構築し、分析を行うものである。 2022年度は、災害共済給付データから2020年度分の院外心停止情報を取得した。これを全国救急蘇生統計と結合し、これまでに作成したデータベースに追加した。 本データベースを用いて、学校管理下でスポーツ中に発生した児童生徒の非外傷性心停止に対して、現場に居合わせた市民がどのような一次救命処置を行うことで患者の生命予後を改善できるかどうか明らかにした。また、心肺蘇生の種類によって生命予後に差があるかどうかを検討した。2008年4月~2020年12月に学校管理下で発生した児童生徒の非外傷性心停止451例のうち、スポーツ中に発生した318例を分析した。現場に居合わせた市民による一次救命処置の実施状況は、一次救命処置無しが25例、心肺蘇生のみが27例、AED装着のみが13例、心肺蘇生+AED装着が253例であった。1ヶ月後に社会復帰できたのは、一次救命処置無し群の28.0%(7/25)、心肺蘇生のみ群の40.7%(11/27)、AED装着のみ群の38.5%(5/13)、心肺蘇生+AED装着群の64.8%(164/253)であった。多変量解析の結果、一次救命処置無し群に対して、心肺蘇生+AED装着群は社会復帰割合が有意に高かった(調整済オッズ比:4.33、95%信頼区間:1.40~13.36、p=0.011)が、心肺蘇生のみ群およびAED装着のみ群では有意な差はみられなかった。以上より、学校管理下でスポーツ中に発生した児童生徒の心停止に対する市民救助者の一次救命処置として、心肺蘇生とAED装着の両方を行えば救命率向上が期待できることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の現在までの進捗状況は、やや遅れている。 本年度は、独立行政法人日本スポーツ振興センターより2020年度(2020年4月~2021年3月)の災害共済給付のデータを入手し、同期間の総務省消防庁の救急蘇生統計と個人結合した。このデータをこれまでに構築した我が国の学校管理下で起こる院外心停止の発生状況から予後までの全体像が把握できるデータベース「Stop and Prevent cardIac aRrest, Injury, and Trauma in Schools (SPIRITS)」に追加した。 次に、本データベースを用いて、学校管理下でスポーツ中に発生した児童生徒の非外傷性心停止に対して、現場に居合わせた市民がどのような一次救命処置を行うことで患者の生命予後を改善できるかどうかを検討した。その結果、一次救命処置が行われなかった症例に対して、心肺蘇生とAED装着の両方が行われた症例は社会復帰割合が有意に高かった一方で、心肺蘇生のみが行われた症例やAED装着のみ行われた症例では有意な差はみられなかった。本研究成果については、第33回日本疫学会学術総会において学会発表した。一方、分析結果についての解釈に関して共同研究者と慎重に検討していたため、研究の論文化に時間がかかった。これにより、今年度中の学術雑誌への掲載ができず、次年度初頭に投稿することとなった。
|
今後の研究の推進方策 |
我が国の学校管理下で発生する児童生徒の院外心停止は年間50例程度であることから、リサーチクエスチョンに基づいて発生状況を把握し、予後因子を探索して結果を公表するためには、より多くの症例を集積することが重要である。2023年度中には2021年度分の災害共済給付データが利用可能になるため、研究分担者や研究協力者らと協力して同年の救急蘇生統計と結合する(約50件の見込み)。これらをSPIRITSデータベースに組み込み、さらに分析を進める予定である。 2023年度は、SPIRITSデータベースを用いて、運動中に心停止を起こした児童を対象として、心停止が発生した日時の気象データと大気汚染データを同年同月同曜日のデータと比較する、ケースクロスオーバー試験を予定している。 上記の研究成果は国内外の学術集会ならびに原著論文として発表する予定である。また、ResearchmapやResearchgateといった研究者用ソーシャルサイトにおいて研究内容を紹介していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
分析結果についての解釈に関して、共同研究者と慎重に検討していたため、研究の論文化に時間がかかった。そのため、論文の英文校閲費および学術雑誌掲載料として次年度使用が生じた。 次年度の使用計画として、研究を円滑に遂行するために、研究分担者、研究協力者、およびデータ提供元との定期的な打ち合わせを行うための旅費を計上した(1か月~2か月に1回程度)。また、研究代表者および研究協力者が研究成果発表を予定しており、そのための旅費も計上した。学術論文作成および公表のため、英文校閲費、学術雑誌掲載費を計上した。その他、研究関連書籍、データ保存媒体等の必要な消耗品購入費を計上した。
|