研究課題
高齢者への処方薬の多剤併用や長期連用は近年急増しており、その弊害への言及も多いが、大脳容積や認知機能関連部位の萎縮との関連について検討した研究は少ない。本研究は地域在住中高年者からの性・年代層化無作為抽出者約2,200人の縦断疫学調査のデータを用い、薬効別処方薬の単剤・多剤の長期連用が大脳容積、特に認知機能関連領域の容積の変化に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。昨年度までの研究成果として1)横断的に解析した結果、降圧薬の服用者では脳灰白質・側坐核容積が非服用者と比較すると小さく、その傾向はACE阻害薬服用者で顕著であった。2)縦断的に解析した結果、10年間継続的にACE阻害薬を服用した中高年者の大脳非白質の低吸収領域容積は非服用群と比して有意に低値であった。3)ベースラインでの処方薬服薬数がその後10年間の海馬容積の変化に及ぼす影響を検討した結果、高齢であるほど、年数が経過するほど、服薬数が多いほど、海馬の萎縮は進行していた。今年度はさらに解析対象者を増やして4)ベースラインでの処方薬服薬数がその後10年間の大脳全灰白質・前頭葉・頭頂葉・側頭葉・海馬・扁桃体・帯状回容積の変化に及ぼす影響を検討した。海馬領域の10年間の容積変化に対して、服薬数と性、服薬数と経過年数と年齢との交互作用が有意となり、海馬への服薬数の影響は男性で、また年齢が高く経過年数が長いほど、萎縮が増強することが明らかになった。一方でこのような影響は全灰白質容積、前頭葉容積等でも認められ、服薬数の大脳容積変化に及ぼす負の影響は必ずしも海馬に限局したものではない可能性も考えられた。本研究を通して服薬数が多いほど、長期的な海馬の萎縮を来すことが明らかになったことには老年医療において意義があると考えられる。
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