非アルコール性脂肪性肝炎(以下、NASH)の発症と病態進展は、急性心筋梗塞発症と相関することが分かっている。血管内皮は、肝臓と心臓に共通に分布し、その内皮のミトコンドリアが障害されると、過剰な活性酸素の産生、アポトーシス、オートファジー、小胞体ストレスを引き起こし、全身臓器疾患の原因となる。しかし、内皮ミトコンドリア障害がNASHと急性心筋梗塞に関連するかは分かっていなかった。私たちはNASHにおける血管内皮ミトコンドリア障害と急性心筋梗塞との関連を解明することを目的とした。研究期間中には以下のことを明らかにした。①NASH進展に伴い、肝細胞内のミトコンドリア過剰分裂の誘導が起きることがわかったが、当初の仮説とは異なり内皮細胞内のミトコンドリアの挙動には大きな変化を見いだすことはできなかった。②NASHに至る手前のNAFLの段階ではミトコンドリア分裂阻害による病態進展抑制の効果は低く、わずかに肝臓内グリコーゲン貯蔵能の改善などがみられるのみであることがわかった。③NASHに至ると過剰なミトコンドリア分裂を阻害すれば、肝細胞内のミトコンドリア優位に分裂抑制が起き、肝細胞や胆管上皮、内皮、マクロファージ、肝星細胞の障害を抑制することで肝臓内炎症、線維化反応を抑制できることがわかった。④心臓組織では、NASHの進展やミトコンドリア分裂阻害の有無に関わらず病理学的に有意な変化を見いだすことができなかった。⑤糖尿病の改善がNASH進展抑制に部分的に寄与していることが分かった。⑥進展期のNASHにおいてもミトコンドリア分裂阻害に病態進展抑制効果がみられることが分かった。これらの研究成果は増え続ける肥満関連疾患による健康障害を抑えるための新しい予防・治療戦略に繋がることが期待される。
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